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「はぁぁ……」
(どう、しよう……)
このドアの向こうには、結ばれた2人がいる。
あの後しっかりけーすけは美味しいところを持っていって、その場で話し合いもして指輪を返しにいったらしい。
前々からお似合いだったぶん違和感はないし、寧ろ周りも「成る程なぁー!」って感じで普通に受け入れてる。
ーー受け入れられてないのは、俺だけで。
無意識にゴクリと唾を飲み込む。
どうしようもなく足がすくむ。
あの日委員会の後、まだ戻ってこないゆっこちゃんとけーすけを待つことなく帰った。
そのまま次の日学園を休んで、今日。
(馬鹿だな、こうなることを望んでたのに)
2人だけの空間というか、俺の居場所がなくなったかもしれないということを……分かりたくない。
心構えはしてたのに、現実になるとこうも動けなくなるなんて思わなかった。
(俺、弱いなぁ)
「あれ? 伊月じゃんおはよー、もう体調平気なん?」
「ぁ、うん、おはよ」
「? 教室入んないの? ってかまだ顔色悪くね? 保健室行けば」
「大丈夫大丈夫っ、全然なんともないかr」
ガラッ!
「「伊月!?」」
「っ、」
いきなりドアが空いて、現れたのはいつものふたり。
「伊月心配した…体調悪かったの? もうきつくない?」
「LINE全然返してこねぇし寝てたのか? なんか一言くれたら見舞いとか行ったのに」
(ぁ……)
「…伊月? どうしたnーー」
触れようと伸ばしてくれた手に、ビクリと全身が震えた。
「ぁ、あのっ、やっぱ俺まだ体調良くないかも…保健室行くねっ」
「……ぇ、ちょ、待っ」
心配してくれるふたりから離れ、来た道を全力で戻っていく。
「はぁ…はぁ……っ!」
変な雰囲気にしてしまった。
絶対なにかを思われてしまった。
走って、走って走って、苦しくなって立ち止まる。
ポツリ
「どう、しよぉ……」
友だち同士が付き合い始めたら、どう接すればいいの?
どうやったら俺は邪魔にならずに済む?
友だちなんてできたことなかったから分からない。
その友だちから離れ、またひとりになるのがこんなに寂しいことなのも知らなかった。
おかしいな、学園に来るまではずっとそうだったのに。
(ひとり…って、どうやるんだっけ……)
どんな顔で毎日を過ごせばいいんだっけ。
視線をどこに向けてれば、どんな音楽をかけて耳塞いどけばいいんだっけ。
前の俺は……一体どうやって過ごしてたんだっkーー
ピリリリリリ!
マナーモードにし忘れたスマホが、けたたましく鳴る。
「…はぃ」
『大丈夫か』
「っ、」
(………あぁ……)
「む、りぃ……っ」
たった一言のそれに、溜め込んでいた涙腺が思いっきり緩んだ。
どうしよう、どうしようどうしよう。
俺、この学園でもひとりになっちゃったかもしれない。
それを確認したくなくて逃げてきてしまった。
もう、どうやって生活すればいいのかわからない。
どうしよう高くん、高くん。
「っひ、ぅ、えぇ……っ、ふ」
しゃくりあげて全然言葉が紡げない。
そんな俺の耳に、ぶっきらぼうな優しい声が流れてくる。
『伊月、帰るぞ』
「でもっ、いま、きたばっか」
『どうせそのまま授業受けても頭入らねぇだろ。
俺ももう今日は学校やめてお前のとこ迎えいくから、待ってろ』
「っ、わ…かった」
『じゃあ外出ろ。このまま電話繋いでていいから』
「ぅ、ん。うん」
けーすけとゆっこちゃんの事はたくさん相談したけど、自分のこういうのは一度も言わなかったのにな。
なんで分かってるんだろう……?
「…高くん」
『ん?』
「好き」
『俺も好きだよ、伊月』
「〜〜っ、ぅん」
すぐ返ってくる返事にまた涙が出て溢れ出して、ぐずぐずになりながらなんとか下駄箱まで歩いた。
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