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【気高い貴方に、私は甚だ見合わない。】
「ぁ……あ、っ、は」
放課後の保健室。
窓の外、すぐそこにあるグラウンドからは部活動に励む生徒たちの声がする。
その中でもひときわ大きく響く声を、背中に感じながら
「はぁ…先生……先生っ」
「んん、んっ、ぁ……」
今日も私は、心に蓋をする。
『六花(りっか)先生。
実は貴方、紫色の薔薇なんですよ』
赴任してすぐ校長室でそう言われたのは、4年も前のこと。
薔薇と運命の人の説明を受けながら、『来年来る紫の運命の者のお相手が先生じゃから、持っておきなさい』と半ば呆然と指輪を受け取り、私のこの学園での生活は始まった。
部活動も盛んで、生徒の元気もいい普通の共学高校。
そこにまさかこんな伝統があるとは知らなかったが、実際運命の人と薔薇が結ばれる様を見ると、不思議と違和感はなかった。
寧ろ私も当事者なわけで、自分の運命の人はどんな人なのか、考えると止まらなくなってしまって。
『これから来る』ということは、まだいないということ。
入学という意味なのか私のように赴任してくる先生という意味なのか、果たして……
もし生徒だったら、どうしよう。
来年入学ならその子は16歳。私は来年26歳で、教師としては若いほうだが年の差10は大きい。こんな年上が相手かよと、落胆されてしまうだろうか……
ーーせめて、自分磨きくらいしておかなくては。
これまでまったく気にしてこなかった外見や体つき。
少しは若く見えるようジムへ通ったり整体へ行ったりして、無駄なものを落とし姿勢を綺麗にした。
あと、女性がしている自分磨きもこっそりネットで調べ試した。マッサージとかスキンケアとか本当にいろいろ。
1番驚いたのは「ボディスクラブ」というもの。入っているいい香りのする砂で身体を擦ると、肌も綺麗になるし香りも肌に付いて一石二鳥だ。はっきり言って女性の垢落としみたいなものだなと思ったが、自分の身体からいい匂いがするのはすごくリラックスできて、今ではすっかりハマってしまってる。
そんなこんなで、運命を知らされ1年で、少しは自分に自信が持てるほど変わることができた。
同時に周りの目も段々と変わり始め、男女問わず慕ってくれる生徒も増えてきて。保健医にも関わらず様々な学年の生徒から話しかけられるのは、クラス担任にでもなったような気分で楽しい。
そしてその年の入学式で、遂に私の運命の人は現れた。
『大山 桔平(オオヤマ キッペイ)』
私や周りの子よりずっと身長が高く、がっしりとした体つき。
名前を呼ばれて返事をする声は太く、立ち上がる姿勢も逞しい。
中学の頃からラグビーの名選手として注目され、将来プロを目指す我が子のためにと両親が校長を頼り入学してきた、この生徒こそが
ボソッ
『っ…あぁ……』
ーー紫色の、運命の人だった。
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