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驚く彼の両肩を押しながら、上半身を起き上がらせた。 駄目だ、こんなのはもう。 「今までずっと、君がそうなったのは私のせいだと…… 私が気づけなかったからだと、思っていました」 教師としての負い目を感じ、彼の手を受け入れてしまっていた。 「でも、それじゃ駄目なんです。 私も君も、前には進めない……っ!」 『先生? 先生は優しいから、もっと我が儘になってもいいと思うんです』 「私は、君とのことを大山くんに話します」 「なっ」 「校長先生にも話して、適した対応を仰ぎます」 『諦めないで』と、言われた。 運命の相手が幸せになることではない、自分が幸せになることを諦めないでと。 私は、私の全てを大山くんに知ってもらいたい。 昨日話してくれた私への言葉。今度は、私が返したい。これまでどんなふうにいつも、君を慕っていたのかを…… もしこれで彼が抱いている私への尊敬が無くなっても、しょうがない。それが私なのだから。 このまま諦めるなんて、嫌だ。 ちゃんと話がしたい。 それから、私も前に 進みたい。 (……あわよくば) もしその進んだ道の先に、大山くんが私を受け入れてくれるような未来を想像するのは…我が儘だろうか……? 「そ…んな、先生!やっぱ昨日なんかーー」 「私は、君と同じ想いを返すことはできません」 「っ、」 「私は」 私、は 「大山くんが、好きです」 呆然とする顔を真っ直ぐに見つめながら 初めて、自分の想いを口にした。 どうか、私に動かせて欲しい。 挑戦させて欲しい、ずっと抱えてきた想いを告げる事を。 大山くんと話をした後校長室へ行く、この順番は完全に私の我が儘だ。 去ることが決まってるのならば、せめて伝えてから行きたい。 薔薇から伝えるのはルール違反だろうが、既にこの子にバレてしまってる時点で私はルールを侵している。なら、もう1つ破ってもいいだろう。 だからお願い。どうかもう、こんな事はやめてーー ポツリ 「嫌だ」 「ぇ?」 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」 「ーーな、ひっ!」 グッとまた押し倒され、着ていたシャツに手をかけられた。 両側から引っ張られボタンが弾け飛ぶ。現れた指輪をチェーンごと思いきり掴まれ、首が閉まって。 「先生は俺のだ! ずっと…ずっとずっと俺のだった、なのに!」 「ち、がっ、違う!私は誰のものでもない! 確かに私は従順だった、君がこうなってしまったのは私にも責任がある、でも!」 「そんなのはどうだっていいんだ!」 「ぐっ!い、た……」 ズボンの上から自身を強く刺激され、その痛さに体が震えた。 瞬間、下着ごと一気に下ろされる。 「先生、まさか抱かれた? 何かされたからそんなになったの? ねぇ教えてよ」 「ち、が……抱かれてなんか、ぁあ!」 いつものように後孔へ指を入れられ、思わずキュウッと締めつけた。 「本当かよ、こんな締まりいいんだからきっとあいつも楽しんだんだろ? 六花先生も一緒に腰振っちゃた? まさかそのまま眠って泊まったとか? なぁ、なぁ!」 「ふ、ぅ、ゃめて……っ」 グリグリと奥を刺激され、はしたなく震える。 嫌だ、もうこんなことをされるのは嫌。 「んん、ん………ぇ?」 熱い感触に、思わず下を向く。 後孔の入り口、勃ち上がった彼のモノが ピトリと押し付けられていた。 「先生は駄目だ。 もっかい…もっかい俺のにしなきゃ……」 「待っ、やめて!」 そんな……もうこれ以上運命の人を裏切りたくないのに、せめて少しは綺麗でいたいのに、私はまた他の人のを受け入れる? 汚されて…また後悔するのか……? 「っ、ぅ、ぐ」 必死に抵抗するが敵わず、メリっと入り込んできた感覚に全身で震えた。 嫌だ、痛い、怖い もうーーーー ガッシャン!! 「先生!!」 扉の壊れる激しい音と同時に聞こえた声が、乗っていた彼を殴り退けた。 「先生、六花先生!」 「え、ぉ…やまく……なんで」 「保健室行くようにって、授業中だけど隣のクラスの奴に声かけられて、 それ…で……」 (ぁ……) 起き上がらせてくれた大山くんの視線が、私の首に下がっている物へ注がれる。 ーーあぁ。 「大山。お前の探してた薔薇さ、先生だったんだぜ?」 ベッドから落ちた彼が、頬を押さえながら可笑しそうに話した。 最悪の展開だ。自分で、言いに行きたかったのに。 「先生さ、もうずっと俺とこんなことしてんの。 俺が先生を調教して、感じやすい敏感な体にしたわけ」 顔を上げることができなくて、下を向いたままギュッと指輪を握りしめる。 頭が真っ白になって、上手く息が吸えない。 でも、話す声だけはしっかりと聞こえて…… 「淫乱な先生にしたのは俺なんだ。 大事な大事な運命の人が生徒とこんなことしてて、お前ももう失望しただろ? だからさ、先生俺にちょうだいよ」 じんわり滲んだ涙が、パタリと落ちた。 (終わった) 赴任してからずっと想い続けた4年間だった。 どんな人なんだろうとドキドキして、受け入れてもらえるよう沢山努力を重ねて。 ーーそれが、こんなふうに…終わるんだ…… 首からそっと、チェーンを外す。 大山君が部活をするときにしていたこの仕草が、大好きだった。 大切そうに指輪を扱っていて、こっちまで幸せになってしまうほどで けど。 「す、ぃませ…で、しっ」 その想い人がこんな人で、すいませんでした。 大切にしている指輪を持ってるのが私で、ごめんなさい。 こんなに年上で、他の人に身体を触られて、いいとこなんかひとつもなくて 私はーー 「先生、指輪取らないで」 「………ぇ」 チェーンから指輪を抜こうとする手を、大きな手に包まれる。 「俺は、先生が紫の薔薇で良かった。 そうじゃないかって、今日放課後訊こうとしてたから」 「ぇ、どう…いう……」 「おい!お前俺の話聞いてたか!? 先生はーー」 「先生は俺のだ。お前、振られたんだろ?」 パサリと落ちてた白衣を肩にかけられ、抱きしめられた。 「やめろよ、ここで俺が引いても先生はお前のものにはならない。わかってんだろ」 「っ、それでも、それでも俺は!」 「いい加減 もう認めろよ。 好きな人を、悲しませるな」 「ーーっ! れは…俺、は….っ!」 苦しそうに歪められた顔から、涙がこぼれ落ちる。 張り詰めた空気の、ほんの僅かな時間。 やがて、ヨロリと立ち上がった彼はそれを拭うこともせずゆっくり歩き出していって。 「あの!」 「っ、」 「す、いません…でした……本当に、本当…に……っ」 「…………っ、くそっ」 ボソリと 小さく呟かれて その子は、静かに保健室を出ていった。 「ぁ…の……」 ベッドの上で、ずっと抱きしめられたまま。 落ち着いてから居心地が悪くなり離すよう伝える、が 「えぇっ」 もっと強く抱きしめられ、思わず顔を見上げた。 「先生。俺、実は前々から自分の薔薇が先生だったらいいのにと思ってました。 いつも遅くまで付いてる保健室の明かりを見ながら俺も頑張ろうって励まされてて、部活が引退して落ち着いたら話してみようと考えてました」 でも怪我をしてしまって、その予定が早まり毎日放課後に話をするようになって。 「先生しか考えられないと。 昨日部屋でシてくれた時、もっとこの人に触りたいと思いました。この人を、俺のものにしたいって」 「っ、でも…私は……」 「六花先生。 先生がこんなに身体を絞ってるのは、さっきの奴のため? こんなに肌が綺麗なのは、いい匂いなのは全部あいつのためですか?」 「違っ、全部……大山くんのため、です…っ」 「なら、もういい。 ずっと気づかれるよう努力してたのに、遅くなってすいません。 俺、貴方じゃないと駄目なくらい、先生のこと好きなんです。だから指輪を外さず、俺を選んでください」 「〜〜っ、ふ、うぅ……っ」 嗚咽を漏らしながら何度も何度も頷く私の頭に、優しいキスが降ってくる。 こんな我が儘な未来があるなんて想像つかなかった。 私を受け入れてくれる未来なんて、本当に…… 「先生、今日は部活休むんで学校終わってすぐ俺か先生の家行ってもいいですか」 「ぇ、なんで」 「触られてたとこ、俺で直したいんで。 あとあいつにされたこと全部教えてください。嫌いにならないんで大丈夫です、ってか同意じゃなかっただろ絶対」 「ぁ、のっ、ここで話をしても…いいんですが……」 「駄目です。さっき鍵かかってたのタックルで扉壊したので、丸聞こえしますよ。 それに、多分話されたら俺先生のことすぐ抱くだろうし、我慢できる自信無いです」 「えぇ!ぁ、は、ぃ」 顔が赤くなる私に、クスクス揺れる大きな体。 放課後、ふたりきりになったら私の想いをたくさん話そう。 貴方がこの学園に来る前から指輪をもらい、貴方が来るのをどんなに楽しみにしてたかを。 窓から見る気高い姿をいつも眩しく見つめていたことも、全部 全部。 貴方が今話してくれたように、私も話をしたい。 「指輪を返すの、明日でもいいですか」 「はい。その……愛しています」 「ーーっ、俺もです、六花先生」 ゆっくり顔を上に向けられ、降りてくる唇。 それを目を閉じて受け入れながら これまでの月日が走馬灯のように駆け巡り、また涙が零れ落ちた。 (ふむ、紫薔薇の指輪は4年ぶりに帰ってきたの。 心配しておったが良かった。本当に努力が似合う2人じゃ) (さて、次は何色かな?) *** [紫色の薔薇の花言葉] 誇り・気品・尊敬 気づいてる方いらっしゃるかもしれませんが、ひとつ前に結ばれたキャラが次で脇役をしているような流れで話を作っています。 ですので、次の薔薇には紫が脇役として登場します。 次回もお楽しみに。

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