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【君には絶対、無限の可能性があると思うから。】 『いやぁ今回も良かったよ、Klu(ケール)くんの曲!』 「ありがとうございます」 ヘッドホンから聞こえる、興奮気味なクライアントの声。 ボリュームを下げながら変わらない口調で応じる。 『歌う子と見事にマッチしてた……すごいな、本人でもないのにまるで本人がそう想ってるように聴こえる。 歌詞も音もテンポも、全てが計算されてるみたいだった……君は本当に天才だ!是非またうちと取引してもらいたい!!』 「混み合ってるので別の機会にお願いします」 『そう言わずにさ!今回の成功も兼ねて一度食事なんてどうだい? 指定の場所まで迎えをーー』 「いいえ、そういうのはいいです。 失礼します」 こちらから一方的に通話を切り、ヘッドホンを投げて椅子の背もたれに寄りかかった。 薄暗い部屋。無音の空間。 「…はぁぁ……疲れた……」 〝Klu〟は、数年前から注目を浴びはじめた作曲家だ。 元々ネットに曲をあげてて、それが業界人の目に留まり依頼がきはじめ今にあたる。 顔出しは一切せず、年齢性別全てが非公開。ただ話す声は男のものだから、業界人はそこから僅かに見える彼の年齢を推測するしかない。 そんな、人物がーー 「まさかこんな引きこもり野郎とは知らないでしょ」 みなさんどうもはじめまして。 ただいま絶賛17歳の引きこもり学生、九頭 架(クズ カケル)と申します。 名字の通りクズ野郎です。まじでクソ。 中学へ上がると同時に引きこもりだし、早5年。 今日も元気に昼間っからカーテンを閉め切り、うじうじしています。 寮は運良く1人部屋だから気がらく。最高の城が出来上がっている。 そんなこの高校は、こんなに引きこもっていても退学にはならない。 校長先生の寛大な御心が理由のひとつだけど、俺の場合はもうひとつ。 首からチェーンを外し、PC画面の光に照らすようそれを掲げる。 虹色の不思議な薔薇。 明らかに自然では咲かない、人工の花。 こんなものに他と同じく花言葉をつけるなんて、ほんと人は傲慢だ。 (〝運命の人〟ねぇ……) 俺は運命の人に呼ばれてやってきた薔薇。 だから余程のことがない限り退学にはならない。好きなことをして過ごしてていいと校長先生に許しを得ている。 年に数回の登校日さえちゃんと行っとけば、後はなにしても構わない。 全国でも名を馳せる有名校でこの待遇。行かないはずはなく、二つ返事で入学した。 それからの快適さといったらもう最高。 実家よりも居心地がよくて、一生ここにいたいと思う。 クーラーもあるし飯も旨いし、ベッドも気持ちいし…… (っと、次の打ち合わせあるんだった) ベッドへと吸い込まれそうな思考を止め、再びヘッドホンをつける。 ネット上にある通話システム。これがKluの窓口。 別にメールでもいいんだけど文章書くのは苦手で…いや喋るのも嫌いなんだけど、でも書くよりはマシというか……そん感じで今のやり方になってる。 次の通話は、よく話すクライアント。売れ始めの頃からお世話になってて、いつもいい距離感で接してくれる人だ。 「こんにちは、お久しぶりです」 『こんにちはKluくんー!元気だった? 楽曲提供した曲聴いたよー相変わらずすごいよかった』 「ありがとうございます。 その件が終わったので、貰った依頼に入れそうなんですが」 『ほんと!? 嬉しいなぁ、またよろしくね。 詳しい話まだしてなかったよね。うちの事務所で抱えてる子に曲を作ってほしいんだけど』 クライアントは、芸能事務所やゲーム会社が多い。 歌手に曲を提供したり、ゲームに曲を提供したり。 自分で決して歌うことはなく、でも自分の曲がこの世界を巡り誰かの耳に入ってるのが心地いい。 それも、たくさんの人の耳に。 『今回の仕事は前より大きくて、うちとしてはどうしても成功させたいんだ。ごめんね、なんかいきなりプレッシャーかけちゃって……ちょっと事務所全体で力が入ってて、それならKluくんしかいないでしょってなって』 「そうなんですね、期待に添えられるようにします。 それで、自分は誰の曲を作ればいいんですか?」 この事務所は、確か歌手やアイドルは在籍していなかったはず。 新たに事業として立ち上げるのか、それとも誰かが歌手に転職するのか…… ここ最近で1番大きな依頼になりそうで、思わずマウスを持つ手に力がこもる。 『橋立 宙斗(ハシダテ ヒロト)って知ってる? 雑誌やテレビに出てるから、わかると思うんだけど』 「ーーーーえ」

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