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「ーーっ、勘弁してくれ…………」 片手で目元を隠しながら、目の前の顔が大きな溜め息を吐いた。 「……リシェ、この際だから言っておく」 「は、はぃっ」 「俺は、陛下の倍は大変だぞ」 「…………ぇ?」 (なに、どういうこと……) 意味が分からなくて〝?〟を浮かべる僕に、こちらを向いたアーヴィング様が口を開く。 「今日の王妃様に対する陛下を見ただろう?」 「はい」 「俺だったら、出歩かないよう確実に部屋へ閉じ込める」 「……ぇ」 「万が一外に出たいときは、俺の目に見える範囲でしか行動することを許さないようにする」 「ぁ、ぁの」 「あとは、そうだな。俺以外の者と気安く話すことを禁じてしまうかもしれない」 「?」 「陛下や王妃様・医師・教師などは、まぁ100歩譲って許す……だがそれ以外の者とは、些細な話さえして欲しくないと思う。 それと発情の時だが、陛下は王妃様と一週間程部屋に篭られるが俺の場合はきっと倍だ。 恐らく1ヶ月か…それ以上か……それくらいに部屋から、寧ろベッドから出られなくなると思っていい。 それからーー」 (ぇ、え?) 真面目な顔で淡々と語られてるけど、待って。 今なにを言われてるの? 部屋に閉じ込める? 気安く話して欲しくない? ベッドの上から出られない? 1ヶ月?? ちょっと待って、頭がパンクしそう。 (でもそれって、要するにーー) 「君のことが、本当に好きで堪らないんだ」 「っ、」 瞠目する僕の頬へ、困ったように笑いながら手が添えられた。 「嗅覚がない分番など諦めていた俺の前に現れ、しかも運命だと告げてくれた。 この喜びは恐らく俺以外には分からない。本当に、奇跡に近いことなんだ」 (アー、ヴィング……さま) 「大切にしたいと思う。もう絶対に、この身体を誰にも傷つけさせはしないと。その為に俺は己を強くしてきたのだとさえ感じる。 だが、その分酷く嫉妬深くなっているのも自覚している。俺は普通の者より大分嫉妬深い。嗅覚がない所為か自分の性格の所為かはわからないが…… リシェが愛おしすぎて、どうすればいいかわからない」 「ーーーーっ、」 (そ、んな) そんなの、僕、は。 「だから、早く体力をつけてくれ」 「ぇ」 「1ヶ月ずっと愛し合えるくらいの力がないと、君が大変だぞ」 「っ!」 そっか。 そうなんだ、そういうことなんだ。 恥ずかしすぎて顔が赤くなる感覚がするけど、それ以上に心臓がギュゥってなる。 どうしようそんなの。 「好きすぎて堪らない」とか、嫉妬とかどうすればいいかわからないとか、全部が全部嬉しすぎてどうにかなりそう。 「ぁ、ぁのっ、僕もっと頑張って体力つけます!だから、その…もう少しお待たせするかもしれませんが……」 「あぁ頼む、そうしてくれ。 初めては万全でおこなったほうがいいだろう。俺も、リシェを気にかけてやれるほど理性があるとは言いきれん。 ……いや、きっと無いだろうな」 はははと笑い、「さて」とアーヴィング様が立ち上がった。 「? アーヴィング様? どちらに……」 「マッサージはもうこれくらいでいいだろう。 番に散々煽られてしまったからな、邪念を晴らしにもうひと稽古つけてくる。このままだと俺はただのオオカミになりそうだ」 「ぁ、うぅ……す、みません」 「別にいい、可愛いリシェが見れたしな。 その代わり ーー覚悟しておけよ」 「〜〜っ、は、はぃ」 「先に寝ておくように」と部屋から出ていく背中。 扉が閉まると同時に、ガバリと布団の中へ潜り込む。 (ど、どうしよ……っ) 陛下よりも凄いってどんな感じ? ロカ様から発情の時の話は聞かせてもらってるけど、それよりもっとってことなのかな。 あの大きな身体で、そんなにも情熱的に抱かれてしまったら………… 「ーーっ、僕、もっと頑張らなきゃ」 もっともっと体力をつけなきゃ。 アーヴィング様から貰える愛に全部応えられるくらいに。 ご飯もいっぱい食べて、さっさと歩いたり走ったりもできるようになって。 あ、あと「身体は柔らかい方が絶対いい」ってロカ様が言ってたな。柔らかくなる運動もしとこう。 あとそれから…それから…… (ぁ……) トロンとしてきだした思考。 そのまま、睡魔に身を任せて目蓋を閉じる。 あと、もう少し…先のこと…… 大好きな番を愛して、愛されて、そんな日々を過ごして。 子どもはたくさん欲しいなぁ。 貴方との子は、きっとみんなみんな可愛い。 慣れない育児にふたりで苦戦して、時には喧嘩もしてしまうかもしれないけれど、ちゃんと仲直りして。 大きくなってその手を離れていったら、次は僕たちだけの時間を過ごしていこう。 そうして、おじいさんになるまでずっと一緒に支え合って…… そんな人生を、歩んでいきたいと思う。 思い浮かべるのは、幸せな時間。 それに、無意識にふふふと笑いながら そっと、まどろみの中へと落ちていったーー 〜fin〜
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