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「こうして話すのも久しいだろう?
昔はよく剣術を共に練習したものだ。勝てたことは無かったがな」
「……クス、そうですね。
ですが、陛下と剣を交えた経験は私を強くしてくださいました。国を守る力を得て様々な功績を挙げられたことは、私の誇りです」
「あぁ…そうだったな、いつだってお前は真面目で直向きだった。年も変わらんくせにどこか大人びておって……全くいけすかん奴だった。ははっ」
「陛下も、昔とお変わりありませんね」
腹の底は見せない。
いつも何処か飄々としているのに、確実に真実を突いてくる。
今も昔も、ラーゲルクヴェスト様はラーゲルクヴェスト様のままだ。
「お互い、可愛い番を持ったものだな」
「はい。まさか自分にも番ができるとは思ってもいませんでしたが」
「お前の場合はそうだろうな。だができた。
これ以上の喜びは無いだろう?」
「ございません」
幾度となく戦い、勝ち抜いてきた日々。
自分はまだ明日を迎えられることを知った戦火の中。
その、どれにも勝る腹の底からの嬉しさと感動を、今も覚えている。
きっと……自分は生涯、忘れることはない。
「正直、もう1人のΩ…リシェの選んだ番が、お前で良かったと思っている」
「? 何故?」
「この国で最も信頼できるαだからだ」
セグラドルで誰よりも強く、逞しい騎士団長。
若くから城の兵として働き始め、その仕事ぶりをずっと見ることができた。
性格も人柄も剣の腕も、全てを知り信頼している。
「リシェに運命の番が現れなければ、王族などにくれてやらずお前と番わせようとしていた」
「な……」
「だが、まさかお前がその運命だった。安心した。
後は…次のΩが無事見つかればいいのだがな……」
「……その時が来るまで、兵は皆でこの国をお守りします。王妃様が身篭っている世継ぎの子も、全て」
「あぁ、頼む」
「はっ」
王妃様とリシェが現れてくれた。
きっと、この流れは繋がってくれると思う。
新たなΩが見つかる日は近いと信じる。
次のΩのため、次の世継ぎの子のため……
(いま一度、俺も気を入れ直さねばな)
「リシェの体調はどうだ」
「まだリハビリに専念しております。もう間も無くで普段通りの生活ができるようになるかと」
「そうか。では、遂になのだな?」
「はははっ、ようやくです」
陛下に『嚙め』と言われ、半ば無理やり噛んだ頸。
何度も襲いかかりそうになる自分を精一杯押さえつけてきた。
(ようやく、準備が整う)
リシェの体調が万全になり、やっとこの手に抱ける日が訪れる。
「時が来たら言え。休暇をやろう。お前が抜けても兵は強いだろう?
お前の場合は……ひと月か、もっとかかるかだな」
「はい、自分が教育しているので強さは間違いないかと。
どれくらいかかるかは、そうですね…随分我慢をしている分、枷が外れた自分の想像がつきません。あの身体を壊さぬよう最大限の譲歩はおこなうつもりですが……」
「無理だろうな」
「恐らくは」
「クククッ」
頸を噛んだ者を前にして、獣にならないαはいない。
「まぁ、精々楽しむことだ。愛しき者と身体を繋げるのは、想像以上に甘美なことだぞ」
王妃様を思い浮かべているのか、優しい表情をした陛下が目を閉じた。
今日の夜は、とてもゆったりとした時間が流れているように感じる。
リシェ以外の者と腹を割って話をする、久しぶりの空間。
これまでのこと、これからのこと。
(子のことはリシェにも聞いてみよう)
近いうちに互いの考えをすり合わせよう。
大丈夫。俺たちはひとつの番なのだから、寄り添うことができるはずだ。
陛下と王妃様の子や、これから俺たちにもできるかもしれない子のことを思い浮かべながら
今はただ陛下との話に身を委ねようと、グラスの酒を飲み干した。
〜fin〜
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