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一気に開けた道。 両側にずらりと店が立ち並んでいて、賑やかな声やたくさんの人で賑わっている。 「ぁ、」 「ん? どうかした?」 「僕ここ入ってもいいですか?」 「どうぞどうぞ」 リシェが指さしたのは宝石店。 成る程、アーヴィング全然装飾品とか着けてないもんな。 何か綺麗なもの渡すのかな。 兵士の負担にならないようなるべく一緒に行動しようと話してた分、共に店内へ入る。 並んでいるのは手頃な値段のものから高いものまで様々。 (んんー、ラーゲル様も宝石……いやでもいっぱい持ってたし部屋の棚1個全部装飾品だしなぁ。辞めとこう) 多分この店の一番高いものよりも良いものを持ってるはず。 勿論「ロカがくれたものは別格だから気にするな」とか言われそうだけど、それで着けられるのはちょっと嫌だし…… 国宝陛下な分、ちゃんとしたものを身に着けてた方がいい。 だから、やっぱ僕は宝石は駄目かな…… 「これにしようかなぁ」 「ん? わ、可愛いね!」 リシェが手に取ったのは、小さな宝石が付いたネックレス。 「すいません。これは本物ですか?」 「あぁそうだよ。店の中には混ざったものもあるが、そこに並べてるのはちゃんとしたものだ。輝きが他と違うだろう? 因みに、あんたが手に持ってる宝石の意味はーー」 「お守り、ですよね?」 「そうそう、魔除の効果があるなぁ。持ち主を守ると言われているものだ」 (そっか、そういうこと!) 正にアーヴィングにぴったりだ。 小振りなのも、多分邪魔にならないよう配慮してのこと。 これなら装飾品に慣れてなくても着けられそう。 むむむ……と悩んだ様子のリシェ。 けど気に入ったようで、「これお願いします」と話していた店主のもとに持っていった。 「おや、ちゃんとしたものだから結構高いぞ? 大丈夫か?」 「大丈夫です、働いているので」 「そうなのか!いや失礼、若いのに大したもんだなぁ。 プレゼントかい? 包んであげよう」 「わ、ありがとうございます!」 働いてる分給料も出てるから、今日はそれを持って来た。 店を出たリシェは、包みを見ながらほわほわ嬉しそうに笑っていて。 「ふふ、喜んでくれるといいねぇ」 「はいっ」 城に帰るのが楽しみと言うように、明るい返事が返って来た。 さて、次は僕の番!なんだけど…… (あれどうかな? いやいやラーゲル様には似合わなそう。 じゃぁこっち? んんーそれもなんか違うというか……) 絶賛迷いに迷って迷い中。 うんうん唸る僕の隣で、リシェがクスクス笑ってる。 兵士たちも苦笑していて。 「ご、ごめんね時間かかっちゃって…僕も事前に考えとけば……」 「いいえ、十分楽しいのでお気になさらずっ」 「悩むのは当たり前ですよ王妃様。だって陛下ですからね」 「自分も、もし陛下に何か渡すとしたらと考えると全く思いつきません。時間はまだありますし大丈夫ですよ」 「あ、ありがとう……!」 みんなの優しさが心に染みてグッとなる。 (よしっ、ここまで来たら絶対いいもの見つけてやるからな!!) 待ってろよラーゲル様! 「………ん?」 市場を隅から隅まで見切って、折り返すかまた別の場所を探すかで迷っていた時。 「あそこ……」 「? ロカ様?」 市場を抜けた先にある小さなお店。 活気ある場所から少し離れてる分、静かな雰囲気の中でちょこんと扉を開けている。 「帽子屋、さん?」 なんとなく足が向いて、そのまま扉を潜った。 花の香水のような香りがする店内。 所狭しと帽子が並べられていて、ひとつとして同じものはなく全て手作りなんだということが分かる。 (す、ごい…これ全部、手作り……) 余程帽子が好きなのか、かなり珍しい色や形のものもあって。 「っ、わぁ……!」 その一角に、丁寧に編み込まれた麦わら帽子が置いてあった。 日の光に当たって綺麗な金色に輝いていて、触ってもチクチクしない。何より軽い。 被ってみると、思ったよりツバが広く影が上手に作れそうだ。 「それが気に入ったかぃ?」 「っ、ぁ、こんにちは」 「こんにちわぁ。可愛らしいお客さんがいらしたねぇ」 奥で、お婆さんが楽しそうにこちらを見ていた。 「お前さん用にしちゃぁそれは大きいだろう。その隣のが丁度いいはずだよ」 「いえ、プレゼントを探してたのでこれくらいが良くて」 「おや、恋人かぃ?」 「いえっ、その……だ、旦那様に、です」 〝旦那様〟 (ひぇ、は、恥ずかしい……!) そんなこと初めて言った!でも間違ってないよねっ!? ぼぼぼっと顔が赤くなるのを、お婆さん含めリシェや兵士たちからも笑われてしまう。 「はははそうかぃ!旦那様とはまぁ、可愛らしい奥さんを持ったねぇ。ならお揃いにするといい。 それをプレゼントにするなら、隣の麦わら帽子と一緒に持っておいで。少し安くしてあげよう」 「えっ、いいんですか?」 「いいさいいさ、いいもんが見れたからねぇ。 私が作ったものを選んでくれるなんて、ありがたいことだよ」 麦わら帽子とか、流石にラーゲル様も持ってないはず。 これは手作りだし世界にひとつだし、喜んでくれそうだ。 「因みにお前さん、子どもはいるのかぃ?」 「ぁ、はい。少し前に生まれた子がひとり」 「そうか。今日はいつまでここに?」 「日が落ちる前ぐらいまでです」 「なら時間はまだあるね。帰る前にもう一度おいで。 それまでに小さい帽子も作っといてあげるよ」 「えぇっ!?」 「なぁに、手は抜かんから安心しな。3人で被りなさい」 「お代も後ででいいよ」と、背中を押されるよう店を出される。 「わぁ、な、なんか一気に決まりましたね」 「王妃様、陛下へのプレゼントは以上でよろしいですか?」 「悩まれるならまだお付き合いいたしますが…」 「……ううん、あれがいい!」 あの手触りのいい麦わら帽子を作るのがどんなに大変か、よく知ってる。 (村で編んだことあるけど、難しいんだよなぁ) プレゼントはあれで充分。 寧ろ子ども用も作って貰えるなんて嬉しすぎる。 3人でお揃いの帽子被って散歩とか、楽しいだろうな。 子どもがもう少し大きくなったら虫取りもできそう。 それから、それからーー 「ふふ、いいものが見つかって良かったですねロカ様」 「うん、ありがとうっ」 納得するものが選べた。 それを告げると、兵士も安心してくれた。 「さて!じゃぁプレゼントも決め切ったし後はめいっぱい観光しよう!!ちょっと小腹も空いたしね、何か食べたいなぁ」 「いいですね、また食べながら歩きましょうか」 「うんっ!」 そのまま観光も美味しいものも楽しんで、最後にもう一度あのお店を訪ねて。 3人分の麦わら帽子を買って、それから城に戻るとーー 「「わぁ」」 門のところに並んでる、互いの番。 「流石だね、愛されてるなぁ」 「クスクスっ、素直に怒られましょうね」 「大丈夫ですよ、王妃様、リシェ様」 「? ぁ、無理言って付いて来てくれましたって話すから安心してね」 「兵士のみなさんには何の罪もないですから」 「え、いや、そういう意味ではなく……」 「「??」」 怒られる、きっと。 そういうことをしたからしょうがない。 けど、聞いてほしい話もある。 たくさん歩いて楽しかったこと、美味しいものを食べたこと、観光してこの場所が綺麗だったこと、それから…… 僕らの手には、包まれたプレゼント。 これを渡す時、一体貴方はどんな顔をするんだろう? 少しでも感謝の気持ちが伝わるといいな。笑ってくれると嬉しいな。 馬車を降りて駆け寄ると、思いの外柔らかな表情。 その胸にポスッと飛び込むように抱きついて。 「「ただいまっ!」」 「おかえりロカ、無事で何より」 「リシェ、楽しかったか?」 「あれ……怒ってない?」 「乳母を始め城の者から話は聞いていたんだ。 だから街に行くことは知っていた、すまなかったな」 「そうだったんだ!なんだ、バレてたのかぁ」 「でも目的は知らんぞ? 何故街へ行った? 欲しいものがあるなら私に言えばいいだろう、一体何を買ったのだ?」 「あ、これは…ふふ、部屋に戻ってからのお楽しみっ」 チラリと隣を見ると、リシェとアーヴィングも仲睦まじく話していて。 「クスクス、バレていたのですね。だから位の高い兵士のみなさんが付いて来てくださったんですか?」 「いや、こいつらは内密にしてでも行くつもりだったらしいぞ。まぁ、事前に吐かせたのは俺なんだが……リシェの気分転換になったのならいい。 特に危ないことはなかったか?」 「はっ、なにもありませんでした」 「セグラドルは、本日も平和でありました」 「そうか、良かった」 「あの、みなさんありがとうございました。 アーヴィング様も、知っていて行かせてくださってありがとうございます」 「大事な番の為だからな。昔の俺なら断固として行かせなかっただろうが……俺も大きくなったものだ」 「ふはっ、団長それ自分で言いますか?」 「大きくじゃなく〝心が広くなった〟って表現の方が合いません? 本当にリシェ様離しませんでしたもんね。俺たちが会話するのも難しかったですし」 「兵の皆がリシェ様と話したかったのになぁ」 「っ、今は話しているだろうが!」 「だから昔の話ですってば!」 「ふふ、あはははっ」 あんなに笑ってるリシェ、久しぶりに見た。 (良かった。こっちの目的も達成かな?) 「さて、部屋に戻るとするか」 「うんっ。リシェ、アーヴィング、またね。 兵のみんなもありがとう!」 「おやすみなさい、ロカ様」 「王妃様、本日はお疲れ様でございました」 「ゆっくりお休みください」 手を振りながら、みんなで解散。 部屋で一息ついたらプレゼントを渡そう。 喜んでくれると嬉しいな、ふふ、楽しみ。 久しぶりに外の空気を吸えた今日。 また明日から、一生懸命子育てに励まないと! その次の日からアーヴィングの首元には銀色に輝く細いチェーンが見えるようになり、その数日後にはリシェの首にも同じようなチェーンが見えるようになった。 恐らく、アーヴィングからのお返し。 そして、僕らはーー 「ロカ、散歩をしよう! 今日は太陽も見えてとても良い天気だぞ」 「なっ、職務は終わったんですか!? また宰相を困らせてませんっ!?」 「そんなものはいいのだ。それよりもほら、早く。 帽子も持ってきたぞ!」 「もー…ラーゲル様……」 思いの外気に入ってくれた帽子を持ち、やたらと散歩したがる陛下が見れるようになったとさ。 みなさん。 本日も、セグラドルは平和です。 〜fin〜

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