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[side 明(アカリ)] 〝あの日〟は、中学の生徒会解散打ち上げの日だった。 今年1年しっかりやり切って、解散前にメンバーで生徒会室にお菓子やジュースを持ち寄ってわいわいやってて。 その中に、酒が混じっていた。 『いいじゃん別に!今日最後なんだしさっ!』 プシュッといい音を立てて開け始めるそいつに、まぁ最後だしいいかと俺も缶を開けて。 そのまま呑んで、あんがいいけるじゃんって呑んで呑みまくって、それからーー 『……んぁ?』 何か、小さい物にずるずる引きずられる感覚。 (なに? これぇ…?) 『しっ、静かにしてくださいね。もうすぐ着きますから……っ』 一生懸命、力の入らない俺をゆっくり運んでくれてる小柄な子。 状況がよくわからないまま、とりあえずされるがままボケッと身を任せた。 ポケットのルームキーを探され、素早く部屋に入りベッドへ落とされる。 『はぁ…はぁ……なんとか先生たちにはバレてない…かなっ?』 『ん〜? ありがとうねぇ』 『ぁ、いいえっ……ぁの、ネクタイ…外しましょうか?』 『おねがいぃ〜』 細っこい手がスルスル外してくれ、ブレザーも脱がしてくれる。 『ね、ボタンも外して……?』 『っ、は、はぃ』 震えてる指で、ひとつひとつ丁寧ボタンが外れていく。 (あ、涼しい…息しやすい……) 『……っ、ぁ、あのっ、会長』 『ん〜?』 『酔いを覚ますには運動がいいって、知ってますかっ?』 『へぇ……?』 ポスっと俺の体に跨り始めた子。 ぼんやり見上げると顔は真っ赤、眉をギュっと寄せていた。 『早く酔いを覚ますには、とにかく運動をするんだそうです。僕の父が言ってました』 『そうなんだぁ』 『だから、先輩…… ーー僕を、抱きませんかっ?』 『うん……?』 『僕とセックスして、さっさと酔いを覚ましちゃいましょうっ? いっぱい汗かいてお酒を外に出さなきゃ。 僕の身体使ってくださいっ』 (汗をかいて…お酒を、外に……) それは、すごく名案に聞こえて。 『そうだねぇ。うん、そうしよっかぁ』 『っ、本当ですか!? ぁ、ちょっとまって下さい。 ぁの、コンタクト外してもいいですか……?』 『ぅん? なぁに……?』 俺の返事を待たずに、ガサゴソしだす跨ってる子。 やがて、落ち着いた頃にはーー 『わぁ、青い目だぁ。』 暗い部屋の中、ベットライトに照らされてキラリと輝く薄青の瞳。 (そぉっか、これ、夢なんだ) 瞳がこんなに青い子はこの学園にいない。 ということは、これは全部夢だ。 (でも、すごく綺麗だなぁ……) 『っ、会長……?』 無意識に瞳へ手が伸びていて、その子の頬を両手で包む。 『お花…みたい』 まるで小さな青い花を思い出すような、その色。 ずっと見ていたいと思うほどに美しいその目に、夢と思いながらも 思わず。 『綺麗だねぇ』 『ーーっ、ふ』 クシャリと歪んだ、その子の顔。 (どうして、そんな顔するの?) 褒めてるんだよ? なんで笑わないの? ーーどうして、涙なんか流すの……? 『っ……ふふ、そんなこと言われるの、両親以外で初めてです。 僕、あなたを好きになって……本当に良かった』 『え?』 (今、なんて?) 『ね? 会長。抱いてください。 何も考えず、おもいっきり……』 そこからの記憶は曖昧で、あんまり覚えていない。 朝起きたら酷く頭が痛くて、昨日生徒会室を出てからどうやって帰り着いたかも曖昧で。 『……ん?』 ボタンがかけ間違われている。 昨日確か外したような気が…したのに…… ブレザーもハンガーにかけられており、ネクタイもシワにならないよう広げて置かれている。 これは、俺がやったのか……? (ーーいや、違う) ガバリと布団を退けると、微かだが薄い血痕の後。 本当によく見ないと見逃す程度のもので、恐らくシミ抜きの処理済みだ。 『っ、そうだ…確か、青い目の……』 夢だと思ったあの子。 夢中で抱いてしまい記憶がないが、恐らくーー 『夢じゃ…なかったのか…………?』 「…ーい、おい、明。明」 「……んん、ん…副、会長……? どうした?」 久しぶりに、〝あの日〟の夢を見た気がする。 ずっとずっと心の奥底にあって…もうずっと探していて…… 「どうしたじゃない、下校時間だ。 委員会も終わったしそろそろ帰るぞ。熱はあまり高くはなさそうだが、体調はどうだ?」 (あ、そっか……俺倒れたんだっけ) ぐっすり寝たからなぁ、少しは楽になってる。 この忙しい時期に、つい探し人を探してしまっていた。 唐草君の影響を受けすぎたなぁ。 今回の実行委員で同じチームになった唐草君。 なんとなく避けられてるような気がして近づいて、それから自然と目で追ってしまっている。 (なんだろう…なんかわからないけど、酷く懐かしい気がして……何処かで会ったかな?) 「送ってくれるの? 」 「そのつもりだ。早く準備しろ。」 「はいはい。君は本当敬語外れると途端に厳しくなるんだから……ん?」 起き上がり布団をどかそうと手を置くと、微かに濡れてる感触。 (なんだ?) なんで、こんな場所が濡れてるんだ? ーー先輩。 (っ、) ーーせんぱぃ、も、いいですっ。 「っ、ぁ」 「お、おい明? まだキツいのか?」 いきなり両手で頭を抱えた俺へ、副会長がすぐ背中を支えてくれる。 (待て) 違う。 俺はさっき、ここで誰かと話をしていた。 ーー先輩、もう…解放されましょう? これは誰だ? 俺は、俺は何を………… 『ーー僕は、あなたを許します』 「……ねぇ、副会長。 ここに来る途中。誰かとすれ違わなかった? 何かおかしな生徒がいたりとか……」 「ん? そうだな…独断誰とも…… あ、だが実行委員に下校ギリギリになっても鞄を置いたまま持ち場から戻ってこない子がいたな。みんなが探し回って、ついさっき見つけて帰した。 その生徒のことか?確かお前のグループの…」 「……唐草、君?」 「だったか? 名前をよく覚えてないが…… だが、泣き腫らしたように目元が腫れてたぞ」 「っ、」 グッと、濡れている布団を握る。 「……副会長。ごめん、お願いがあるんだけど」 「ん、聞いてやる」 「わぁ、返事早いね」 「お前と仕事して長いからな、カンだ。 ーー探し人が、見つかったのか?」 「多分…ね」 多分……いや、きっとそう。 (やっと、見つけた) 「帰りながら話そう。あのさーー」

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