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終.紡がれていく物語3
「レイジなに飲むー?」
自分にはいちごオレを淹れながら、リビングのレイジを振り返る。
「コーラある?」
「うん、コーラな」
冷蔵庫にパックをしまって、コーラのペットを取り出す。
ぱたん、と冷蔵庫の蓋が閉まったのと同時に、ガシャンと小さく金属同士がぶつかる音が聞こえた。
「あっ……」
キッチンから飛び出して、廊下を駆ける。
玄関の鍵がカチャリと捻られ、ドアがゆっくり開いた。
「だだいま、蓮さん」
走ってこなくて大丈夫ですよ、と苦笑するヒロに、
「おかえり、ヒロ」
飛びついて、キスをした。
「ヒロ~」
「はい」
スリスリすると、困ったように笑って、頭を撫でてくれる。
「……新婚か、お前たちは」
ヒロの背後から、呆れたような声が聞こえた。
「あ、会長。一緒だったのか」
「蓮くん、あたしもいるよ」
「っ!…柚希 も、いらっしゃい」
ヒロの妹の柚希だ。
妹の前だとなんとなく甘えづらくて、ヒロから離れて2人にスリッパを出した。
「お客さん?…玲人 さんですか?」
「うん」
「なら、蓮は藤ヶ谷と一緒に別室で遊んでいろ。いつもお前は勉強の邪魔をするからな。丁度いい」
「なんだよそれ、邪魔なんかしてないだろー!」
「いや、しているな。ヒロの膝にベタベタしているかと思えば、酷いときにはチャックを開けて…」
「わーっ!っそーゆうこと言うなよ!柚希がいんだぞっ」
「俺の前なら良いというその神経が分からん」
「…もーいいよ。二階に行ってるから」
会長の意地悪め。
足音を鳴らしながら歩いていると、
「蓮ーっ?」
部屋からレイジの声がした。
「レイジ、会長と柚希も来たーっ」
「そうなの?おかえりー、ヒロくん。お邪魔してます」
「でさー、会長がレイジと一緒にべっ…」
唐突に手を引っ張られて、足と一緒に言葉も止まった。
「なに?ベッドでいちゃいちゃしてろって?いや~ん、立梨のエッチ」
なんか、レイジがバカなこと言ってやがる…。
ヒロが、一度そっちに目をやって───
「蓮さん…」
ふわりとその胸に抱き込まれた。
「俺の傍から離れないでください。貴方が見えない方が、気になって集中できない」
「………うん!」
背中に手を回して、ぎゅっと抱きついた。
「わかったわかった。バカップルめ」
会長がヒロの背中をぽんぽん叩いて、追い越していく。
「兄 ぃ、先に先生借りるよ」
ヒロと同じく受験生の柚希が、会長の後に続く。
廊下に残された俺は、ヒロの胸を少し押して身を離した。
見上げて、視線が絡み合うと、照れくさそうに微笑む。
こんな、幸せでいいのかな…。
瞼を閉じると、やさしい感触が唇に重なる。
「ずっと、一緒にいような」
掌をあわせて、ぎゅっと握りしめる。
「はい。大好きです、蓮さん」
俺の大好きな顔が、大好きな笑顔で頷いた。
〈完〉
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