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1.新たなる能力
数日前、新たな力を手に入れた。
この力を使って世界征服を───!
……なぁんて。
俺は中二病でも無いし、寧ろこの新能力に迷惑してるくらいだ。
能力なんて言っても決して便利な力なんかではなく、それは寧ろ日常生活に支障をきたす類のもので。
意図せずして手にしてしまった力に、
自らの意思で発動箇所を選べない駄々漏れのその力に、
俺は翻弄させられまくっていて、そろそろ寝込んじゃいそうなくらい。
………いや、もういっそ、寝込もう!寝ちゃおう!授業なんてサボってもOK!
次は英語だ。
骨先生(本名、芳年 安志 。御年62歳のおじいちゃん、嘱託教諭。痩せぎすでなんだか骨っぽい)の最近の憂鬱の事情なんて、二度と見たくないもんな!
そうと決まれば、そろそろ予鈴の時間。
人の減ってきた昼休みの屋上の隅、目立たない場所に一人寝転ぶ。
こうしてれば万が一誰かに見つかっても、
「周防 !そんな所で何やってる、授業中だぞ」
「すみません。チャイムに気付かずにうっかり寝過ごしちゃいました。俺ってばドジっ子で…テヘ」
「しょうがないな。次からは気をつけるんだぞ」
で、初犯無罪放免、めでたしめでたしだ。
やがて5時間目開始5分前のチャイムが鳴り響き、鉄の扉が閉じる音を最後に、屋上は静かになった。
誰もいない屋上───
端っこにいるのもなんだかメンドクサくなってきた。
一人なんだし、別に隠れてなくてもよくない?
そう思ったらいてもたってもいられなくなって、誰が見ているわけでもないのにこ~っそり起き上がって、そろりそろりとベンチに移動した。
屋上から外向きに設置されたベンチ。空が大きく見える。
脚を開いて背をズルズルと滑らせ、だらしなく座る。
ふと脚の付け根あたりを見下ろすけれど、見慣れた制服のスラックスが見えるだけだ。
ガシャン───
重い鉄扉が開く音がして、思わず顔を上げた。
教師来た!?
と一瞬身構えたけれど……
振り返れば、見覚えのある同学年のヤツが校舎から出てくるところだった。
そう低くはない筈の扉をその男は、体を屈めてくぐる。
話したことはないけど、有名人だからその存在は知ってる。
B組の橘 。バスケ部の主将で、身長190cmオーバーの目立つヤツだ。
自然と目が吸い寄せられる。
「……はは…、でっけぇ……」
思わず口を付いて出た言葉。
橘は、真っ直ぐな黒い前髪の向こうに見える眉を怪訝そうに顰めた。
俺だって、何も見たかった訳じゃない。
つい視線が動いてしまったんだ。
見たい訳じゃなくって、そう言う能力を手にいれてしまっただけなんだ。
だからどうか、責めないで欲しい。
普段は真面目に授業に出てる俺が、出席放棄してまで一人になりたかった理由───その力とは、
衣服の下に隠された男のシンボルがモロ出しで見えてしまう超能力………いや、呪い、だった。
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