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そう言うと、日比谷はほんの少しだけ笑った。唇の端を微かに上げ目を細めるその姿は、美しくてどこか儚い。視界がぐらっと揺れる。目眩がするのはきっと……。 俺が日直でないにも関わらず仕事を押し付けられたことも、日比谷にはお見通しのようだ。「お前だって日直じゃないのに悪いな」とか「いいやつだな」とかもっと言うべきことがあるはずなのに、ただ突っ立っていることしかできなかった。 その後のことはあまり覚えていない。気づいた時には家に着いていた。たぶん日誌と鍵は日比谷にお願いしたんだろうけど、そこから先は飛んでしまっている。ただ記憶に焼き付いているのは、日比谷の姿と声だった。絹糸を紡ぐような繊細な仕草と、聞く人の気持ちを和らげる温かな声。 これが一目惚れというやつなのか?今まで恋愛なんてしたことないし、そういう感情を持ったこともなかった。まさか俺が男……しかも日比谷相手に……。正直この気持ちはまだよくわからない。けど、彼の魅力に虜になってしまったのは本当なんだろう。今までに感じたことのない鼓動が俺の中で鳴り響いていた。

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