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第2章 共同作業

奇跡という言葉は大嫌いで信じてもなかったが、本当に起きるものなのかと実感した。いや、あまりにも奇跡的すぎて実感すらわかない。手の震えが止まらない。 黒板に書いてある文字を見つめる。「川下|志津《しづ》 日比谷一葉」という文字は見間違えではないようだ。 ゴールデンウィーク明けの今日、担任から「2人でペアになって、本を1冊クラスのみんなに紹介する」という訳のわからんコーナーを開催する旨を告げられた。この高校は朝読書の時間を設けたり、課題図書を与えたりと無駄に読書を推している。高校3年にもなってこんなことしてる場合じゃないだろう、受験生だから他にすることがあるだろうと思うが、ここは有名な進学校でもないし、俺自身勉強する気なんてさらさらないからどうでもよかった。が、2人組で発表だなんてコミュ障には難問である。2人組というワードはトラウマなのだから。 とまあ、そんなこんなで結局担任が適当にペアを決めた。クラスメイトからは「自分らで決めさせろ!」とブーイングが起こっていたが、担任曰く「仲良しメンバーとではなく、あまり話したことのない人とも関わって欲しい」ということらしい。自由に決めさせると俺みたいなやつは余るから確かにマシだけどさ、誰かと共同作業だなんて絶対嫌だ……と俺は恐れていた。 が、その恐怖は希望へと変わった。俺はまさかの日比谷とペアになったのだ。話す機会が全くなくて落ち込んでいた俺に光が差したんだ。担任、ありがとう!今までめんどくさい教師だとか思ってて悪かった!お前は今日から神だ! 「うわ、見ろよ。川下と日比谷がペアだぜ」 「すげぇ、陰キャ同士じゃねぇか」 「先生絶対仕組んだよねー」 「俺あいつらとペアじゃなくてよかったー」 「私もー。あの2人苦手だもん」 周りの男女共が口々にそう言っている。いつもの俺だったら腹を立てて一生恨むレベルなのだが、今はそれどころではない。日比谷の席を見るとただぼーっと座っている姿が映り込み、それがやけに愛おしかった。

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