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その日の放課後、俺はさっさと帰る支度を済ませ勢いよく立ち上がった。部活に行くやつらよりも早く下校の準備が終わっていただろう。 しかし悲劇は訪れた。日比谷はそれ以上に早く自分の席を後にした。嘘だろっ、早すぎるだろ……!俺は急いで教室から出た日比谷の背中を追いかけた。 日比谷は意外にも歩くのが速い。背筋はぴんと伸びていて軽やかだ。歩く姿さえも美しさを感じた。息を切らしながらなんとか彼についていくが、本人はまだ俺に気づいていない様子。名前を呼べばいいものを、臆病な俺はただひたすら追い続けることしかできなかった。まるでストーカーだ。 途中、諦めて帰ろうかとも思った。でも神様か何かわからない誰かが、ペアとして日比谷を選んでくれた。このチャンスを逃してしまえば、もう俺はただのゴミクズになってしまう。走り出すこの不思議な感情は止まらないんだ。 このまま追いかけっこが続くのかと思いきや、日比谷は玄関ではなくある場所へ入っていった。図書室だ。しんとした空気が漂っている。俺は恐る恐る部屋に忍び込んだ。 日比谷は部屋の中をうろうろした後、理科コーナーで立ち止まり小難しそうな本を取り出した。タイトルは遠くて見えないが、また量子力学かなんかのよくわからん本だろう。 こんな歳で緊張して足がすくむなんて……。でもあいつと話したい、声が聞きたい。そう願ってしまう。こんな情けない俺に、どうか勇気を……! 拳をぐっと握りしめ、彼のいる方向へと歩みを進めた。だんだんと距離が近づいていく。本を真剣に読むその姿は美しいとしか言いようがない。横顔でも端正であることがわかるほどだ。とても変人とは思えないくらいに。顔もかっこよくないし性格もひねくれている俺だけど、今はあいつと繋がりたい……。 「あっ、あの……」 また口癖かのように“あの”が出る。すると日比谷が顔をこちらに向けた。無視されなかったから少し安心した。 「……今日さ、その、読書のやつでペアになったから……。よかったら、一緒に本を探そうかな、って……」 話しながら恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。そう、俺は日比谷とペアになったからには何か接点を作りたいと思い、頑張って話しかけることにしたんだ(ほぼストーカーだけど)。しかし流石はコミュ障の俺、話すことすら上手にできないし、視線も合わせられない。

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