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あたふたしてもう一度日比谷に視線を戻すと、真顔のまま口を開いた。 「ああ、それか。そのためにわざわざここへ来たんだね」 俺は黙って頷いた。本当に顔から火が出そうだ。日比谷に気持ち悪いと思われたらどうしよう。 「僕もその発表用の本を決めようと思ってね」 そう言って日比谷は本を閉じた。そうだ、ここは図書室。日比谷もちゃんと今度の読書発表会のことを考えてくれてたのか……。何だか嬉しくなった。 「えっと、どういう本がいい?」 「うーん、色々見て回ったけどどれもぴんと来なくてね……。この本も興味深いとは思ったけど発表には少し向いていないと思って」 日比谷は手に持っている本を俺に見せた。タイトルは“メンタルは生まれつきなのか、そうではないのか”。この前の量子力学よりはまだわかりやすそうだが……。 「この本はその名のとおり『メンタルが強いか弱いかは生まれつき決まってるのか?遺伝性なのか?』について書かれてある。遺伝の法則に基づいてメンタル面を解説している部分もあれば、精神論を語っているページもある。文系理系関係なく読めるという点がメリットかな。ちなみに結論は半々らしい。結局は生まれ育った環境や人間関係によって後天的に作られる性格もあるからね」 「う、うーん……」 またしてもスイッチが発動してしまった。こういうところはやはり変人なのだろう。でもなぜかすごく嬉しそうな表情をしている。俺の心が和んだ。 「そ、その本は選ばないのか?」 「うん。読みやすいという部分においてはいいんだけど、結論が弱いというか。タイトルで問題提起をしておいて、答えはどちらとも言えないという微妙なものだから、後味があまり良くなくてね。前半は興味深かったがゆえに、後半の内容が少し残念だったよ」 などと饒舌に語る日比谷。まあ確かにそれは発表用ではなさそうだ。「何を発表するんだ?」となりそうだし。俺としてはメンタルが先天性か後天性かよりも、どうやったらメンタルが強くなるのかを知りたいところだが。というかこの短時間でほぼ全部読んだのか、以前から読んでいたのかは不明だけど、すごい読み込んでるなこいつ。 「じゃあ、また別の本を探そうか」 「そう言いたいところなんだけど、この学校の図書室にはしっくり来る本がないんだ」 「えっ、いつもたくさん本を読んでる気がするけど……」

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