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「僕は基本的に本屋で買った本を持ってきて読んでいるんだ。もちろんここにも個人的な興味をそそられる本はたくさんあるんだけど、こう、万人受けのものが多いというか」
そりゃあ高校生向けの本ばかりだからな。日比谷はもっとマニアックなものが好きらしい。
「ちなみに君はどういう本が好みかね?」
「えっと、俺あんまり難しい本は読めないから……漫画とかは好きだから、イラストとかあるわかりやすい本とかかな……」
「ふむ。発表用にする時、あまり僕の好みばかり押し付けてもよくないからね。聞いてみた次第だ」
「えっ、そんな……」
気を使わなくてもいいのに、という言葉が上手く浮かばず詰まってしまった。でも変な本を選ばれるとそれもそれで読むのに苦労しそうだな。日比谷の優しさなのかわからないが、俺に対する態度や言葉ひとつが嬉しく感じる。
ふと、俺の中であるアイデアが浮かぶ。断られたら怖い……けど……。
「……もしここにあんまり好みの本がないならさ、市の図書館とかどうかな?そこならもっと色んな本がありそうだし……」
高校から少し離れたところに図書館がある。もう何年も行ってないが確か種類が豊富だったはず。
日比谷は少しきょとんと目を開いた後、またいつもの真顔に戻った。
「なるほど、その手があったか。では、今週末にでも行ってみるよ。君が好きそうな本をいくつか借りてこよう」
「あっ、いや……」
意を決して、俺は震える口を懸命に動かした。
「俺も一緒に探すよ」
その言葉が意外だったのか、また日比谷は目をやや大きくさせて顔をほんの少し傾けた。
「えっ、いいのかい?」
「うん。ペアだしさ……」
そう言うと、日比谷は少しだけ口元を緩めた。
「なら、お言葉に甘えて」
眼鏡の奥に光る2つの瞳が、まっすぐと俺に向けられている。そのまま見つめていると熱で溶かされそうな感覚に陥った。儚くも美しい彼の姿を俺は必死で焼き付けた。
ほとんど喋ったこともない相手に一目惚れし、なかなか話す機会もなかった。まさかこんな形で接点を持つことができるなんて思ってもいなかった。
高校3年になって、ようやく俺は人を愛しいと思った。
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