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図書館デート(仮)

* 長くて待ち遠しかった土曜日がやって来た。あれから図書館に行く約束をして俺達は別れた。本当は一緒に下校もしたかったが、俺にとっては土曜日の約束ができたことが死ぬほど嬉しくって、これ以上は心臓が持たないと思い勢いよく図書室を出てしまった。もしかしたら日比谷に悪い印象を持たれたかもしれない。若干の後悔を抱きつつ今日を迎えた。 待ち合わせ場所は市の図書館。俺の家からは電車で15分くらいだ。休日に人と会うなんて、家族以外の誰かと話すなんていつぶりだろう。思い返せば誰かと遊びに行くなんて経験、ほとんどなかった。初めての感情に戸惑いを感じつつも、日比谷に会いたい気持ちでいっぱいだった。 図書館の入口で挙動不審になる俺。まだ日比谷は来ていない。何度もスマホを確認して時間を見てしまう。まだ約束の時間まで余裕がある。俺はまるでデートの時の彼女みたいだ。 少しの間そわそわしていると、遠くから見覚えのある眼鏡をかけた細身の男が見えた。胸が高鳴る。日比谷だ。いつもと違って私服姿の彼はよりスタイルがよく見える。ジーンズをあんなに着こなせるなんて。シャツの袖からチラつく腕は透き通るような白だ。適当なズボンとしわくちゃの上着姿の俺とは大違いである。だって休日に外出なんてめったにしないからさ……服も全然持ってない。 日比谷は俺に気づくと、そのままこちらへ向かってきた。俺はぎこちなく手を挙げた。デートってこんなにドキドキするのか。生まれて初めての感覚だ。 「待たせてしまって申し訳ないね」 「あっ、いや、俺も今来たところだから……!」 なんて初めてのデートみたいな会話をしてしまった。休日の日比谷はどんなやつなんだろう。相変わらず変な理屈を1人で喋っているんだろうか。それとも……。そんなことを考えながら、俺達は図書館の入口へと向かった。 図書館の中はしんと静まっていた。いつものうるさい教室よりよっぽど落ち着く。そういや昔兄貴と図書館で鬼ごっこしてたら、母親に静かにしなさいと怒られたことがあったな。もうこの歳だから日比谷と鬼ごっこなんてしないけどさ。 日比谷は行き慣れているのか、スタスタと道を進んでいく。俺は早歩きで追いかけた。そしてあるコーナーで立ち止まった後、日比谷は振り返った。 「君、イラストがある本の方が読みやすいって言ってたよね?」 「えっ、あ、うん、言った……」

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