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俺は素直な気持ちを吐露した。自分がされて嫌だったから、日比谷にやらせたくなかった。ここで日比谷に押し付けたらあの時のやつらと同じになってしまう。
そんな様子をぽかんと見つめる日比谷。俺変なこと言ったかな。余計なお世話だったかな。でも日比谷は肩をすくめた。
「君は情に厚いんだな」
「えっ、そんなことないよ、俺性格冷たくてつまらないやつだし」
「僕はね、よく人間観察をするんだ。暇だからね。君は大人しくてあまり周りに興味がないタイプだと思っていたけど、実際は意外な面が多かった」
「そ、そうかな」
「うん。趣味のことになると案外喋るし。ロリコンではないという点も驚きだった」
「いやそこ別に驚くところじゃないだろ」
どんな目で俺を見てたんだこいつは。まさか初めて話した時も俺をロリコンだと思ってたのだろうか。けど、以前から俺を認識してくれていたことが嬉しかった。日比谷の視界に1秒でも俺が入っていたことがこの上なく幸せだ。
「それに、ちゃんと名前で呼ぶんだなって感じた。先程から僕のことも苗字で呼んでるし」
「えっ!?そ、それは、自然に言ってて……」
一気に顔が熱くなった。確かにさらっと日比谷って連呼していた。日比谷のことが好きすぎて本当に無意識で言ってしまったようだ。
「勝手ながら君はあまり人を名前で呼ばないイメージがあった。大人しいと人の名を呼びづらい傾向があるのかな、と」
「それはそうだな、なんか恥ずかしくてさ……」
彼の言うとおり俺は人の名前を呼ぶことを躊躇う。そもそもあんまり人と喋らないから呼ぶ機会もないんだけどな。
「ごめん、馴れ馴れしかったかな……日比谷くんとか、別の呼び方の方が……」
「いや、日比谷でいいよ。逆に僕はなんて呼べばいい?」
予想外な質問に一瞬時が止まった。日比谷が俺の名前を……?考えてもみなかった。そりゃあ嬉しいことに変わりはないんだけど、そんな、日比谷が俺の名を呼ぶなんて想像もしてなかったから……。そもそも俺の本名を知ってるのだろうか。
「何でもいいって言ったら困るだろうけど、苗字でも名前でも、好きな方でいいよ」
「じゃあ……川下、でいい?」
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