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心読むなよこいつ。俺の反応が面白いのかニヤニヤとしている。でも思い返せば日比谷は変な発言をしているだけで、別にマナー違反はしていないよな。ひとつひとつの仕草が丁寧だし、それは習い事の影響だったのか。 「マナー講座なんて習ってるやつ初めて聞いた」 「そうだろうね。子供の頃はかなり色んな習い事をしていたよ」 「へぇー。どんなやつ?」 「うーん、ピアノとか塾とか、英会話教室や習字や水泳といった定番のものだったり、華道とか茶道、陸上……もう数え切れないくらい。今は全部辞めたんだけどね」 「すげぇ……よくそんなに習えたな……」 これはびっくりだ。全部自分でやりたいって言い出したのだろうか?てかそんなに習って体壊さなかったのかな。もしかしてめちゃくちゃ天才なんじゃないか?俺なんて習い事なんかしたことがない。スポーツには興味がないし、ギターもやってみたいとは思ったけど結局実践していない。成績が落ちた時に母親に塾に連れて行かれそうになったけど、なんとか回避した。 「色々やった結果がこれだからね。たくさんやればいいって訳じゃないということが、僕の存在により証明できている。けど、君に褒められたのなら少しは習ってた甲斐があったのかな」 そう自分を控えめに言う日比谷。もっと自信持っていいのにな。たくさんの習い事をするなんてみんなができることじゃない。胸を張ってもいいのに……と思ったが、それを俺が言うのは何だか気が引けた。 「ところで、今日は申し訳ないね、僕のわがままに付き合ってもらって」 「えっ、そんな、わがままとかそんなんじゃないし……!」 俺は慌てて否定した。元はと言えば俺が日比谷に声をかけたんだ。無理やり誘われただなんて思ってない、むしろ俺が強引に誘ったのでは? 「こういうのを1人でやることには慣れてるからね。今回も1人で発表用の資料を用意しようと思っていた矢先、君も一緒にするって言ってくれた。感謝してるよ」 日比谷に礼を言われるなんて……嬉しいはずなのに違和感を感じた。だって、それは当たり前のことだから。 「全然……。俺もこんな性格だからさ、ペアやグループでの活動でも俺1人に押し付けられたりして。で、俺も断れないし。いつも1人でやらされるのが嫌だった。だから日比谷には1人で背負って欲しくなくて……。あんまり力にはなれないかもしれないけど……」

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