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放課後の帰宅途中、目の前に姿勢のいい男が歩いていた。凛としたその背中は間違いない。今日は運がいい。 「日比谷」 俺は後ろから声をかけた。やつが振り返る。相変わらず綺麗な顔立ちだ。眼鏡の奥に見えるまつ毛さえも愛しく感じた。 「やあ、お疲れ様」 「お疲れ」 共同作業をしていた頃は流れで一緒に帰っていた。それが終わり、今では話す頻度も減ってしまった。もうなかなか一緒に下校できないのかと思うと寂しい気持ちが込み上げる。今日くらいは、いいよな……。 「あのさ、今日の休み時間に……」 俺は今日あった出来事を話した。クラスメイト3人がやってきて、おまじないが叶ったと言っていたこと。すると日比谷は静かに笑った。 「なるほどね。彼はずいぶん乙女チックなんだな」 「確かに……」 見た目は男気溢れてるやつなのに、意外とそういうのにも興味があるんだな。男女関係なく努力と信じる力で叶うといったところか。 「そうそう、僕もクラスメイトに似たようなことを言われたんだ」 「そ、そうなのか?」 「うん。坂田さんという女子がいるじゃないか、あの小柄な。その人もおまじないをしたら叶ったと言ってたんだ」 坂田といえば、クラスでも静かな女子だ。あまり周りと会話をしているイメージはない。俺もほとんど会話をしたことがない。 「そうなんだ。坂田さんと接点なんかあるんだな」 「いや、今まで話したこともなかった。今日の朝電車の中で声をかけられてね。あのおまじないを試したら好きな人から返信が来たようだ。今までは返信なんて来たこともないらしいから、かなり嬉しかったと喜んでいたよ」 「今まで返信が来ないって、どんな相手なんだ?」 「動画投稿をしているアイドルって言ってたよ。それなりに登録者数も多いようで。画面の向こう側に恋をしているようだね」 「そっち系かよ……」 どうやら坂田には推しがいて、ガチ恋しているらしい。なんか意外だなとも思ったが、大人しいやつってヲタク率高いんだよな。俺も人のこと言えねぇけど……。 「それと、川下がああいう発表をするのは珍しいとも言っていた」 「休み時間に同じこと言われたな……」 「『おまじないを紹介してくれてありがとう』と伝えてくれ、と言われたよ」 「やっ、そりゃ嬉しいけど、元々本を提案したのは日比谷だしな……」

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