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帰り道
あっという間に日が暮れた。店を出て帰路につこうとすると、斎藤が言った。
「実は俺さ、この後部活のメンバーと会う約束があって。悪いんだけど2人は先に帰っててくれないか?」
手を合わせて謝る斎藤。おい、これ絶対仕組んだだろ。ホントに気が利くやつだな。
「わかった。今日はありがとうな」
「こっちこそ!急な誘いだったのにありがとう!」
俺が礼を言うと、斎藤は満開な笑顔を見せた。その笑顔は夕日に負けないくらいの眩しいものだった。
「誘ってくれてありがとう、斎藤」
俺の横にいる日比谷が小さく呟いた。やけに素直な様子の彼が可愛いなと思った。斎藤は満足そうに頷くと、じゃあな、と片手を挙げて俺達から離れていった。
スマホを見てみると、1件のメッセージが来ていた。
『ここからはひびやんと2人きりだぞ?頑張れ!』
やっぱりそういうことか。全く、どこまでお人好しなんだか。スマホをポケットにしまい、駅へと歩き始めた。
夏だからまだ明るいが、暑さはだいぶおさまった。セミのなく声がする。相変わらず今日の日比谷は静かで、大人しい俺と並ぶと余計にしんとした空気が漂う。2人で歩くのは久しぶりだな。なぜか気まずさはなかった。
駅まであともう少しかかる。日比谷とは途中まで同じ電車だから、まだ一緒にいられるけど……なんだか寂しい気がした。
しばらく黙って歩いていると、先に話を切り出したのは日比谷だった。
「いつの間に斎藤と仲良くなったんだい?」
「えっと……ちょっと前にトイレで出くわして喋って……。結構話が盛り上がって、今度遊びに行こうよって話になったんだ」
「ほう。どういう経緯で僕も参加することに?」
「うっ……、それは、せっかくなら仲のいい人もう1人誘おうってなって、俺が日比谷を指名したんだ。斎藤もよく話すって言ってたし……」
ごにょごにょと言い訳をしておいた。たぶん日比谷は納得していない。実はおまじないの紙を落として斎藤にバレちゃって……とは言えない。というかトイレで出会ったなんて酷いものだな。
日比谷はそれ以上は追求してこなかった。すぐに別の話題に切り替わった。
「川下って意外と色々歌うんだね」
「えっ、ま、まあ……。歌ってたのはほとんど斎藤だけどな」
「川下もまあまあ曲入れてたよ」
「そ、それは、歌ってみたら結構慣れてきて……」
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