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決意(文哉 side)
「全て話したんだね、ひびやん」
誰もいない放課後、俺はひびやんに言った。彼はかわしーに自分の過去を伝えたという。頑なに自分のことを言わないひびやんが、ここまで決心するなんて……。
「僕は自分が傷つくことを恐れて、関係ない人まで傷つけた。それなのに川下は……僕の過去を知らないはずの彼が……人前で話すなんて嫌でたまらないだろうに、みんなの前で僕を庇った。彼だって意味もわからず避けられたのに。彼なら僕の話を受け止めてくれるかもしれない……そう思って僕は話すと決めたんだ」
ひびやんはそう静かに語った。あの事件の時、かわしーが助けてくれた。その時の彼はどんなヒーローにも負けないくらいかっこよかった。
「斎藤もありがとう。一緒に庇ってくれて」
「そんな……俺は大したことしてないよ」
俺はというと、かわしーがいなかったらひびやんを助けられなかった。事件が起こった日、俺は足がすくんで動けなかった。怖くて何もできなくて……ただの臆病者だった。
「結局俺はかわしーのおかげでできただけ。自分1人で立ち向かうこともできない、情けないやつなんだ」
自分の非力さに嫌気がさす。本当は誰よりも早く助けたいのに、怖い気持ちが勝ってしまう。“あの時”だって、もっと早く声をかけていたら、いじめを止めていたら……ひびやんはこんなに苦しまなかった。自分が本当に嫌で嫌で……。
でも、そんな俺にひびやんは首を横に振った。
「僕は斎藤に何度も救われたよ。この前の時もそうだし、中学の頃も……。君があの時保健室に来てくれなかったら、僕は今ここにいない。だから、感謝してもし切れないくらい嬉しいよ。ありがとう」
そう微笑むひびやんは、“あの時”とは違っていた。色を失った瞳じゃない、光で溢れている。揺らぐことのない決意を持ち、もう迷いはないという顔をしていた。
「斎藤。君の正義は偽善なんかじゃない。誇りに思うべきだ。例えどんなに遅くたって、人を救うことに間違いなんてないんだから……」
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