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「ありがとう。俺と出会ってくれて。日比谷に会えてよかった。生まれてきてくれて、ありがとう」
俺は必死に笑顔になった。強い想いを込めて。もうこれ以上何か話すと、好きだという気持ちを口にしてしまいそうだ。
日比谷は今までにないくらい目を見開いている。時計の針の音も校庭から聞こえる運動部の声も、今は全く聞こえない。時が止まったかのようだ。
しばしの沈黙が流れ、日比谷は俯き加減で呟いた。
「……僕は変なやつだよ?くだらない理屈を言うし、読書発表会でも好き勝手にして……」
わずかながら、日比谷の肩が震えている。支えてあげたいのに、触れることもできない。
「しかも本当の僕はなんの取り柄もない、人と会話もろくにできない空っぽな人間なんだよ?おまけに、君の手が触れようとした時に避けてしまった。君を傷つけてしまった。僕に生きる意味なんて……」
「ある!日比谷がここに存在する、それだけで価値のあることなんだよ!」
自分を卑下する日比谷に俺は声を張った。日比谷が生きているから、今の俺がいるんだよ……!
日比谷が顔を上げる。今度は俺が見つめる。絶対にこの瞬間を見逃さないように。
走る鼓動は止まることを知らない。抱きしめられない代わりに、俺は人生で1番の想いを叫んだ。
「俺はどんな日比谷でも受け止める!例え指1本触れられなくてもいい!俺は、初めて会った日から……日比谷のことが、好きなんだ……!!」
教室に俺の声が響き渡った。とうとう言ってしまった。心臓はまだ騒がしい。生まれてきてから1番緊張した気がする。
どれくらい時間が経っただろう。もしかしたら1分くらいかもしれないし、30分以上待ち続けた気もする。時間感覚がわからなくなるほどの静けさを、ついに日比谷が破った。
「ありがとう」
彼は笑っている。季節外れの夜桜のように美しい笑み。散りゆく花びら1枚さえも俺の心を惹き付ける。
「……返事は、また後日でもいいかな?」
俺にしか聞こえない囁き声で、彼はそう言った。返事の言葉。考えてもなかった。
「もちろん。いつまでも待ってる」
もうすっかり日が暮れていた。ある夏の日のこと。俺は生まれて初めて、人に想いを告げた。
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