長くて辛い物語を、日比谷は淡々と俺に話してくれた。それは、想像を絶する過去だった。日比谷が人に触れられないこと。あえて人を寄せつけないような性格を作り上げたこと。その理由がわかった。辛かったな、と簡単に口にできるものではなく、俺はしばらく言葉を失っていた。 日比谷は窓際に立って俺を見つめている。透き通った水晶のような瞳。終始真顔で語ってくれたが、心なしか少し悲しげな表情にも見える。その姿さえも愛しく感じる。 「……と、ここまでが僕の滑稽な物語さ。長時間付き合ってもらって申し訳ない」 そう言うと、日比谷はほんの少しだけ笑った。何か言わなきゃと思うのに、あまりにも壮絶な過去で俺が泣きそうなくらいだった。 「別に感想や同情を求めているわけではないよ。ただ……君には知ってもらいたいと思ったんだ」 恐らくほとんどの人が知らない、日比谷の過去。それを俺に勇気を出して伝えてくれた……胸は痛むけど、気を許してくれたのかと思うと切ない気持ちになった。 日比谷に向ける言葉が思い浮かばない。いや、伝えたいことはたくさんあるのに、どれが適切なのかわからなかった。でも、このまま黙り続けてもきっと正解はない。俺は感じたことをありのまま伝えることにした。 「まずは、話してくれてありがとう。一言で片付けるべきじゃないとは思うけど、苦しい気持ちを抱えて、今でも戦ってて……。本当に、よく頑張ったな」 一呼吸置いた後、俺は続けた。 「正直、頭の中がぐちゃぐちゃだ。お母さんとも色々あって辛かっただろうし、近所のやつらや同級生達からのいじめも腹が立つ。俺が代わりに、今から殴りに行きたいくらいだ」 心底腹立たしい。日比谷を苦しめるやつなんて。彼の生い立ちや性格をバカにして、才能を妬んで……。たったそれだけのことで、なんでこんな酷いことを……。 「でも、斎藤のおかげもあって、わざわざこの高校に来てくれて……俺は嬉しい。日比谷がいなかったら、俺はずっとひとりぼっちだった。つまらない毎日だっただろうし、斎藤と話すこともなかった。全部全部、日比谷のおかげなんだよ……！」 もし日比谷のあの過去がなかったら……ここにはいないかもしれない。きっと俺は今でも孤独だった。 想いが抑えきれない。日比谷への感情が溢れ出す。