101 / 122

たまたま通りかかった先生が日比谷のことを介抱し、保健室に連れて行った。日比谷がいなくなった教室は、またいつものように騒いでいる。何事もなかったかのように。 俺の心は限界だった。このクラスは終わってる。そして、それでもなお硬直して救いの手を出せない俺も同罪だった。 家に帰って葛藤した。俺はどうして日比谷に何もできなかったのか。情けなくて辛くて……。昔の出来事に囚われている自分がいた。 ふと、小学校の時の彼と日比谷が重なる。2人とも光も希望も失った、暗い表情をしている。次に、笑った顔が浮かび上がった。そうだったな、あの日サッカーに誘った時、わずかながらにも嬉しそうにしてたよな。あの時の顔、もう一度見たいな。日比谷ももし声をかけたら、笑ってくれるかな……。 俺はようやく決意した。彼や日比谷への罪滅ぼしとして、そして2人の笑顔のために。 翌日、俺は担任の先生に全て話すことにした。今までずっと言えずにいたこと。日比谷のいじめについて。チクリとか偽善者とか言われても構わない。ただこの事実を伝えたかった。 「先生っ、ずっと言えなくて、ごめんなさい……。……俺、日比谷を……助けられなかった……っ!」 気づけばボロボロと涙をこぼしていた。もっと早く言えばよかったという後悔。日比谷を傷つけてしまった自責の念。 そんな俺に、先生は大丈夫だよと言ってくれた。教えてくれてありがとう、と。日比谷のお母さんも心配して学校に電話をしてたらしく、先生達も何があったか把握できていなかったそうだ。 その後、俺の相談によりいじめていたやつらは全員怒られたそうだ。校長先生まで混じって注意していたという。 しばらくの間学校を休んだ後、日比谷は保健室登校を始めたと先生から聞いた。もうクラスメイトにも会いたくないだろうから、俺はほっとした。それと同時に、ある決断をした。 ある日、俺は保健委員長に立候補した。小学校の事件があってから、俺は目立つことを極力控えていた。だから今回の立候補に周りは驚いていた。 「文哉が委員長に立候補するなんて珍しいな」 「まさか、高校受験のためじゃないだろうなぁ?」 友達はみんな内申点稼ぎだってからかった。確かに俺はバカでテストの点数も低いから、そう思われるかもしれないな。 「へへっ、そういうことだよ」 でも、1番の目的はそれじゃない。

ともだちにシェアしよう!