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文哉の過去・中学校時代(文哉 side)

小学校を卒業し、中学に入った。あの事件以来、俺はクラスでほとんど話さなくなった。卒業アルバムも見たくないほどの暗い表情だった。自分は嫌われている、偽善者。そう思うと人と話すことが怖くなった。あの時いじめを受けていた彼もどこか違う中学校に行き、今はどうしているかわからない。 幸いにも中学からはメンバーがかなり変わった。入学してまもなく友達にも恵まれた。少しずつ明るくなれた。でも、あの頃のようにみんなの前で発言したり、堂々と前に立つことはできずにいた。 中学3年の時。クラスで酷いいじめにあっている男子生徒がいた。日比谷一葉。のちに俺のかけがえのない友達になる人だった。 日比谷は当時は全く喋らなかった。声もほとんど知らないくらい。でも成績はものすごく良くて、毎回学年トップだった。おまけに運動もできるし音楽や絵の才能もある。とにかく天才だった。 人と話せない性格を暗いとバカにされ、才能を妬まれていた。陰口は悪質ないじめに変わっていった。許せなかった。話したこともないくせに、勝手にいじめをするやつらが。根も葉もない噂を広めて、聞こえるように悪口を言う。 そして俺は、それを止められない自分自身に苛立ちを感じていた。本当は今すぐ止めに入りたい。いじめてるやつらを注意したい。でも、俺の心にはずっとあの言葉が刺さっていた。 『酔いしれてんじゃねぇよ、偽善者が』 動くたび、息をするたびに俺を締めつける。怖くて辛くて、何もできない。目の前で日比谷がからかわれたり酷いことをされているのに……1番苦しいのは日比谷なのに……。 それから、あの事件が起こった。休み時間にいじめグループのやつらが日比谷の悪口を言い始めた。そして、日比谷の肩を掴むと、彼を菌扱いしたんだ。みんなで日比谷を菌と呼び擦り付ける。 なんて酷い……最低だ……。よくもそんなことができる……。それでも俺は、喉まででかかった声を出せずにいた。 やめろよ……やめてくれよ……っ!! なんでだよ俺……声、出せよ……クラスメイトが傷ついてるのに……。恐怖で体が震えている。 その時。日比谷がその場で嘔吐した。今までの苦しみや辛さ、全てを吐き出すように。クラスメイト達はみんな逃げ回る。汚いと叫び、誰1人助けない。

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