105 / 122

志津と一葉

* 日比谷に告白して1週間ほどが過ぎた。ついに彼から連絡が来た。 「この前の返事をしたいから、放課後いつもの空き教室に来て欲しい」と。 もうすぐ夏休みが始まる。補習があるとはいえ、日比谷に会える頻度も下がってしまう。もし振られてしまったら……どんよりした夏休みを送るんだろうか。また俺はひとりぼっちになるのかな……。いや、そんな弱気になったらだめだ、いつもどおりに……! お馴染みの空き教室に、俺と日比谷が2人きり。何度も経験したけど、今日は特別緊張している。 「1週間も待たせてしまって申し訳ない」 「い、いやっ、急だったから早く返事をしろって言われても困るよな」 俺より少し背の高い日比谷が、真っ直ぐに俺を見下ろしている。彼の口からどんな言葉が出てくるのか。期待と不安が混ざり合う。 ゆっくりと唾を飲み込む。これから、日比谷の答えが返ってくる……。この瞬間を見逃さないよう、俺は彼を見つめた。 日比谷は静かな口調で呟いた。 「川下。この前のあれ、もう一度聞かせて欲しい」 「あれ……?」 「うん。君が僕に言ってくれた言葉。もう一度聞きたいんだ」 予想外の発言。それって、もう1回告白しろってことか……?思い出しただけで顔が熱くなる。 「も、もう1回か……。恥ずかしいな……」 「お願いだ、川下」 緊迫した表情でそう言う日比谷。冗談ではなく本気なことが伝わり、俺は覚悟を決めた。あの日、なんて告白したかな……。思い出そうとすればするほど、言葉がまとまらない。いや、もう思い出すんじゃなくて、今心にある想いを伝えよう。 息を軽く吸い込み、俺は日比谷と見つめ合った。 「好きだ。初めて会った日から惹かれてた。それは友達以上の感情で、会うたび話すたびにどんどん好きになっていった。例え指1本触れられなくても、俺は日比谷を守りたい。辛い時も楽しい時も一緒にいたい」 気持ちが溢れ出す。とどまることを知らずに。日比谷の笑顔も真面目な顔も切ない表情も……全部全部…… 「愛してる」 それが、俺の想い。俺の日比谷に対する気持ちだ。 気持ち悪いって思われても構わない。ただ、どうしても伝えたかった。 日比谷の顔を直視する。思わず逸らしたくなっても、絶対によそ見しない。 これでいい。俺の全てを捧げられた……。

ともだちにシェアしよう!