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玄愛《雅鷹side》1

物心ついた頃から、俺の人生退屈だなと思っていた。 双子の弟の雅雉(マサキ)はいわば天才だった。 大人達は俺と雅雉を比べて、教育は雅雉に全力を注いでいた。 俺はただ、甘やかされただけ。 俺は努力しても雅雉に敵わない。 努力をしないで何でもこなせる雅雉に対しては、羨ましいとか妬ましいとかそんな感情は一切なく、興味がなかった。 「タカくん」 俺は興味ないのに、雅雉は俺に笑顔で近づく。 それが純粋な笑顔だと分かるから、余計に劣等感を感じる。 性格もいいんだね。 本当に、俺は何で生まれてきたのかな。 幼いながらそんなことばかり思うようになった。 雅雉に唯一勝てることを揚げるとするなら、俺は健康だった。 雅雉はよく体調を崩して入退院を繰り返していた。 そして雅雉が7歳の頃、何をしても高熱が下がらず、重度の肺炎で亡くなってしまった。 それから大人達は俺を雅雉の代わりとして、今まで雅雉に注いでいたものを俺へと移した。 俺は気付かれないようにずっと努力をしていた。 だからだろうか、努力せずとも雅雉のように色々飲み込めるようになっていた。 大人達は安堵していた。 でも俺は何をこなしても常に"雅雉なら"もっとやれていたんだろうなと劣等感に襲われていた。 つまらない。人生退屈。 ずっとこんな感情を抱いて生きていくの? 俺が死んだほうがよかったのに。 生きているのが苦痛。 そんなことばかり毎日考えていた。 中学にあがっても、自分の立場を利用して好き勝手やれた。 人を操るのも簡単。 思い通りにいかないことなんて何もない。 余裕な人生。 そう思っていたのに。 「おい山田、掃除しろよ」 中2のときにクラスが一緒になった哀沢くんが、訳の分からないことを言ってきた。 一瞬、理解できなかった。 「掃除?俺が?嫌だよ」 俺は哀沢くんに渡されたホウキを突き返した。 「いいからやれ」 「やらないよ。俺、山田財閥…」 「知らねぇよ。やってから帰れよ。班一緒なんだから」 そう言ってまたホウキを突き返して去っていった。 「や、山田くん僕掃除やるから」 同級生が焦って俺からホウキを奪って代わりに掃除を始めた。 「むっかつくー!!なんなの彼!」 「哀沢、部活に早く行きたかったんだろうね」 「部活?そんなののせいで俺が掃除するの?」 「バスケ好きだからね哀沢。掃除は僕がやるよ」 それが哀沢くんとの出会いだった。 俺のこと知らないの? 俺に楯突いたらどうなるか知らないの? 大人だって逆らわないのに? 意味不明すぎるんだけど。 「やれよ掃除」 「しない!」 「やれ!」 翌日、またホウキを持たされた。 なんなんだ哀沢炯。 マジでむかつく。 俺に歯向かってくる人なんていなかったのに。 そうだ。 「え?無視するの?哀沢を?」 「そう!クラス皆でね!」 クラス全員に哀沢くんを無視するように指示した。 当然皆は言うことを聞く。 でも哀沢くんは休み時間は本を読んでいるし、昼食も先輩に呼ばれて別の教室にいるし、放課後は部活だし意味が無いことに気付いた。 ムカつくから哀沢くんのカバンに大量に石を入れたこともあった。 逆にその石を俺のカバンに入れ返されたけど。 「山田くん…まだ無視しないとダメ?哀沢効いてないんじゃ…」 「いーの!やるの!」 「分かったよ」 うーん…どうしてくれようか? そうだ! 俺は哀沢くんが履いてたバスケットシューズを捨てた。 《君のバスケットシューズは捨てました♪》というメッセージカード付きで。

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