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玄愛《雅鷹side》2

翌日の朝、 俺が教室の机に座っていると、登校してきた哀沢くんが目の前にきた。 「山田」 謝ってくるかな? 俺に掃除を押し付けてきたこと。 「なに?」 そう思って顔を上げると、左頬に激痛が走った。 え、なに… 俺、ぶたれた? 一瞬の出来事で脳が追い付かない。 みんな驚いてこっちを見てる。 教室がざわつく。 そりゃそうだ。 この俺がぶたれたんだもん。 「何す…」 「二度と俺の前に現れんな」 そう言って自分の机に座っていつもみたいに本を読み始めた。 そんなに怒ること? あんなのいくらでも買えるじゃん? ムカつくからすぐに同じものを手配しようとした。 俺は本を読んでいる哀沢くんに話しかけた。 「ねぇ、捨てたやつと同じバッシュ買ってあげるからサイズ教えてよ」 哀沢くんは一度顔をあげて俺の目を見たけど、すぐにまた本を読み始めた。 この俺を…無視? あり得ない。 あり得たことない! 「ねぇ、別に高いやつでもいいから欲しいやつ言ってよ。買ってあげるから。あれ汚かったし、それでいいじゃん」 「…金の問題じゃねぇよ。つーか、もう話しかけんな」 むかつく。 むかつく。 てか、叩いたことを謝れ。 悔しい。 こんな感情知らない。 「雅鷹、何をイライラしているの?」 「姉さん…!哀沢くんって同級生が俺に毎日掃除しろとか言ってきて掃除させようとしてくるんだよ!」 「雅鷹に?」 俺は帰宅するなり姉さんに現状を話した。 姉さんは驚いていた。 「そう!だからクラスで無視したりしても効かないから、バッシュ捨てたんだ。そしたら俺のことぶったんだよ?あり得ないよ!」 姉さんは笑い出した。 「なんで笑ってるの?」 「雅鷹もそんなに感情的になるのね。哀沢くん?素敵な友達じゃない」 「友達じゃないよ!ボロボロのバッシュだったのに新品が嫌なんて意味不明なんだけど」 俺は家族の中で唯一姉さんには心を開いていた。 それでもここまで感情的に話をしたのは初めてかもしれない。 しかも、学校の話しを。 それぐらい俺のペースは哀沢くんに狂わされていた。 「大切なものだったのかもね」 あんな使い古したバッシュが大切? お金が無いだけじゃなくて? バスケ部の部員に確認すると、あのバッシュは哀沢くんのおじいさんがくれた物だったらしい。 でもおじいさんはすでに他界していた。 「おじいさん亡くなってから学校1ヶ月ぐらい休んでたんだよ」 それは確かに大切な物だ。 お金で買えない物ってあるんだ。 自分の中で、初めて他人に謝ろうという感情が芽生えた。 「哀沢く…」 翌日から哀沢くんに話しかけようとしても、俺が近づくとどこかへ行ってしまう。 「ねぇ、あい…」 本当に避けられてる。 もう何もしないのに。 嫌われた? そりゃ嫌われるか。 人に嫌われても何も感じたことないのに。 哀沢くんには謝りたい… 嫌われたくない… 「山田くん!バスケ部のボール空気抜いておいた。バスケ部はボールないから走り込みしてるよ」 「え?どうしてそんなこと…」 「だって哀沢に嫌がらせしろって言ってたじゃん」 そんなことしたら、余計に哀沢くんに嫌われちゃう。 「もういいんだ。哀沢くんに何もしないで…」 謝らないと… 哀沢くんの部活が終わるまで校門で待ち伏せすることにした。 ボールが無いせいか、予想より早く部活が終わった。 先輩と歩いていた哀沢くんが俺に気付いて近づいてきた。 「あの…哀沢くん…」 「ふざけんな!ボールの空気抜くとか信じらんねぇ!」 「違っ…俺じゃ…」 やったのは俺じゃないけど、哀沢くんに嫌がらせをしようと指示したのは俺だ。 だから言い訳出来なかった。 普段の冷静な哀沢くんからは想像もつかないぐらい怒ってる。 人にこんなに怒られたのが初めてで心臓がバクバクする。 「俺だけじゃなく、皆に迷惑かかってんだよ!」 「ごめ…」 「あ、哀沢~…俺たちは大丈夫だからさ。そんなに怒るなよ。帰ろうよ」 バスケ部の先輩達が、俺を怒ってる哀沢くんを見て慌てて止めに入った。 哀沢くんは先輩達と一緒に帰っていった。 ちゃんと謝りたい。 許してもらえるか分からないけど。 哀沢くんに嫌われたくない。 こんな感情初めてだ。 俺は先生に哀沢くんの家を聞き出して、歩いて家まで向かった。 執事に電話して車で送ってもらってもよかったけど、距離もさほど遠くなかったし歩くことにした。 30分ぐらい歩くと、哀沢くんの家を見つけた。 どうしよう。怖い。 また拒絶されたら。 ていうか、されて当然だよね。 明日にしようかな。 そんなことを考えながら、来た道を行ったり来たり繰り返した。 たぶん、2時間ぐらいは悩んだと思う。 悩んでいる途中で大雨が降って来た。 どうしよう。  帰ろうかな。 こんなずぶ濡れで、住所まで調べて家まで来るなんて気持ち悪いと思われるよね。 余計に嫌われ… 「何やってんだ。風邪引くだろバカ」 声のする方に顔を向けると、哀沢くんが俺の頭の上に傘を広げて雨を凌いでくれていた。

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