7 / 42

玄愛《雅鷹side》6

「ありがとう、またね」 「あぁ」 落ち着いてから哀沢くんの家を出ると、外は雪が降っていた。 気温は寒いけど、心は暖かかった。 抱いてもらえた。 感情は無かったけど。 哀沢くんは俺の中に刻まれた。 嬉しいはずなのに―… 哀沢くんを諦めなきゃいけない。 「無理そう…」 ボソッと呟き、自宅を目指した。 迎えを呼べば来てくれるけど、今は一人で歩きたい気分だった。 こんな弱い自分、知り合いに見られたくないから。 街はカップルばかりで、俺の居場所なんて無い気がした。 だめだ。 何を見ても涙が出る。 こんなにも好きで、 でも届かなくて、 想うことすら許されなくて、 この気持ちをどうしたらいいのか分からない。 どう消化していいのか分からない。 哀沢くんを好きにならない方法なんて分からない。 次、どんな顔をして会えばいいのかな? そのとき俺は笑っていられるのかな? こんなにも恋愛で自分が崩れるなんて。 嫌いと言われたわけでもない。 好きな人がいると言われたわけでもない。 ただ、好きになることを許されないだけ。 でもそれって、一番辛いことなんじゃないかな。 『俺は山田を大切だなんて思ったことは1度も無い』 大切だと思ってるのは俺だけ。 分かってたことなのに。 言われた言葉を思い出すと、涙がずっと止まらない。 友達だっていいじゃないか。 別に付き合えなくたって。 瞬間、 「危ない!」 雪でスリップしたバイクが歩道に乗り上げ、勢いよく俺にぶつかった。 何が起きたか分からない。 何処が痛いのかも分からない。 息が苦しい。 あぁ、やばいこれ俺の血? 俺の血液って希少なのに勿体ない。 こんな状況で血液のこと考えられるなんて余裕だな俺。 このまま死ぬのかな… 人が集まり、街がざわめく。 偶然にも俺の目線に、手を伸ばせば届く位置に携帯があった。 このまま死ぬのなら、 最期に哀沢くんの声を聞きたい。 俺は血に染まった手を伸ばし、携帯をとって哀沢くんに電話をした。 『どうした?』 今、幸せだよ。 最期に哀沢くんの声が聞けて。 ありがとう。 そう言いたいのに… 『山田?』 なんだよ俺、ダメじゃん。 口が動かないぐらいヤバイの? 『山田…切るぞ?』 動け、 動け、 動け、   最期に言っておきたい言葉があるのに… 呼吸をするだけで精一杯。 今までありがとう… 大好き… そんな簡単な言葉も伝えられないなんて。 最後の力を振り絞れよ。俺のバカ。 街がざわめく。 雪が赤くなっていく。 意識が薄れていく。 人生退屈だった。 俺はいなければいいってずっと思ってた。 だけど今は、 哀沢くんがいるなら、生きてて良かったって思えるようになった。 俺は哀沢くんに生かされてる。 まだ一緒に居たかったな… 哀沢くん、 いつまでも哀沢くんが好きだよ。 俺を変えてくれてありがとう。 俺を満たしてくれてありがとう。 哀沢くん、大好き―… 俺は頬を伝う涙の温かさを感じながら目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!