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玄愛《雅鷹side》6
「ありがとう、またね」
「あぁ」
落ち着いてから哀沢くんの家を出ると、外は雪が降っていた。
気温は寒いけど、心は暖かかった。
抱いてもらえた。
感情は無かったけど。
哀沢くんは俺の中に刻まれた。
嬉しいはずなのに―…
哀沢くんを諦めなきゃいけない。
「無理そう…」
ボソッと呟き、自宅を目指した。
迎えを呼べば来てくれるけど、今は一人で歩きたい気分だった。
こんな弱い自分、知り合いに見られたくないから。
街はカップルばかりで、俺の居場所なんて無い気がした。
だめだ。
何を見ても涙が出る。
こんなにも好きで、
でも届かなくて、
想うことすら許されなくて、
この気持ちをどうしたらいいのか分からない。
どう消化していいのか分からない。
哀沢くんを好きにならない方法なんて分からない。
次、どんな顔をして会えばいいのかな?
そのとき俺は笑っていられるのかな?
こんなにも恋愛で自分が崩れるなんて。
嫌いと言われたわけでもない。
好きな人がいると言われたわけでもない。
ただ、好きになることを許されないだけ。
でもそれって、一番辛いことなんじゃないかな。
『俺は山田を大切だなんて思ったことは1度も無い』
大切だと思ってるのは俺だけ。
分かってたことなのに。
言われた言葉を思い出すと、涙がずっと止まらない。
友達だっていいじゃないか。
別に付き合えなくたって。
瞬間、
「危ない!」
雪でスリップしたバイクが歩道に乗り上げ、勢いよく俺にぶつかった。
何が起きたか分からない。
何処が痛いのかも分からない。
息が苦しい。
あぁ、やばいこれ俺の血?
俺の血液って希少なのに勿体ない。
こんな状況で血液のこと考えられるなんて余裕だな俺。
このまま死ぬのかな…
人が集まり、街がざわめく。
偶然にも俺の目線に、手を伸ばせば届く位置に携帯があった。
このまま死ぬのなら、
最期に哀沢くんの声を聞きたい。
俺は血に染まった手を伸ばし、携帯をとって哀沢くんに電話をした。
『どうした?』
今、幸せだよ。
最期に哀沢くんの声が聞けて。
ありがとう。
そう言いたいのに…
『山田?』
なんだよ俺、ダメじゃん。
口が動かないぐらいヤバイの?
『山田…切るぞ?』
動け、
動け、
動け、
最期に言っておきたい言葉があるのに…
呼吸をするだけで精一杯。
今までありがとう…
大好き…
そんな簡単な言葉も伝えられないなんて。
最後の力を振り絞れよ。俺のバカ。
街がざわめく。
雪が赤くなっていく。
意識が薄れていく。
人生退屈だった。
俺はいなければいいってずっと思ってた。
だけど今は、
哀沢くんがいるなら、生きてて良かったって思えるようになった。
俺は哀沢くんに生かされてる。
まだ一緒に居たかったな…
哀沢くん、
いつまでも哀沢くんが好きだよ。
俺を変えてくれてありがとう。
俺を満たしてくれてありがとう。
哀沢くん、大好き―…
俺は頬を伝う涙の温かさを感じながら目を閉じた。
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