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玄愛Ⅲー文化祭編ー《炯side》3
保健室には誰もいなかった。
当たり前か、文化祭だっていうのに仮眠するやついるかよ。
俺はベッドの使用名簿に名前を書いて、眼鏡とマントを外してベッドに横になった。
少しだけ開いている窓の外から風が吹く。
今日は天気もいいし、爆睡するには最高の環境だ。
そう思っていると、少しして誰かが保健室に入ってくる音が聞こえた。
俺以外にもサボるやついるんだな。
俺の寝ているベッドのカーテンが開けられる音がする。
おいおい誰だよ。
部員か?戻ってこいとか?
俺はもうすぐ落ちる―…
「哀沢くん寝てる?寝てるよね」
眠りの世界まで足を一歩踏み入れてる俺の脳に、山田らしき声が聞こえ、その世界へ行く足を止めた。
「…かっこいい」
これは山田の声か?
「いくら哀沢くんがかっこいいからって、俺だって可愛いんだからね」
あぁこの発言は間違いなく山田だ。
「みんな可愛いって言ってくれたんだから、そんなに余裕ぶってていいの?」
だから、誰が余裕だなんて言ったんだよ。
「写真もめちゃ撮られたし、体触られたし、知らない人に誘われたよ」
寝てる俺を挑発しに来るなんて、この後どうしてやろうか。
「いつか他の人のものになっちゃうかもしれないよ?そしたら…」
他の人のものになる、なんて考えられないようにするしかねぇよな。
「そしたら…」
「そしたら?」
俺は目を開けて山田に問いかけた。
「あ、いざわくんっ…!起きたの!?いつから聞いてたっ?」
「―…かっこいいあたりから」
山田は俺が寝ていなかったことに焦りを見せた。
俺は起き上がって山田に問いかける。
「司会は?」
「アヤちゃんが変わってくれた」
「へぇ」
さっき綾に会ったとき、俺が保健室で寝てくると伝えたからそれを山田に言ったんだな。
綾は総合司会を変わってまで俺と山田を仲直りさせたいのか。
人を挑発したり、司会を変わったりよく分かんねぇやつだな。
「アヤちゃんが言ってたけど、約束って…なに?」
「…やっぱり忘れてたのか」
俺はため息をついた。
まぁ、予想はしていたけど。
「い、いつ?何の約束した!?」
「去年の文化祭の時だな。『来年も絶対文化祭一緒に歩こうね、絶対だよ、約束』って言ってただろ」
山田は俺の発言に、過去を振り返って自分が言ったことを思い出した。
「い…言ってた!覚えてたの?」
「一応」
「ご…ごめん」
「なのにお前は文化祭実行委員になっちまうしな。忙しいの知ってただろ。実行委員じゃなくても準備大変なのによ」
物凄く申し訳なさそうな表情をして、自分自身を頭の中で責めているのが分かった。
多分、この後山田は謝り倒し始めるだろう。
そうなると自己嫌悪が止まらなくなる。
別に謝罪を望んでいるわけじゃないんだ。
「本当にごめん。ごめんね。俺ひとりでバカみたいに怒って。俺本当に性格悪い。嫌になる。最後の文化祭だから盛り上げ…」
山田が自分の言動を謝罪している途中で、俺はそれを阻止するために山田を引き寄せてキスをした。
「ん…は、ぁ…」
別に謝罪なんかいらない。
山田の性格を理解してれば分かってたことだ。
楽しい思い出を作りたかった、ただ純粋にそれだけだって分かってたのに。
喧嘩をして、最悪な思い出にさせる必要もなかった。
俺が少し大人になって、事実を伝えればよかったのに。
山田に思い出して欲しかったと片隅に思ってしまった俺も意地が悪いんだ。
「今ので許してやる」
数秒ほどの激しいキスを終えて、俺は山田を見つめて微笑んで言ってやった。
「つーか山田も準備大変だったろ?俺も昨日まで打ち合わせだし、強豪と練習試合間近で今日も朝練で15km走り込みだったしマジで眠い」
そう言って、俺は再びベッドに横になった。
「だからまだ寝…」
「したい!!」
山田はベッドに上り俺に馬乗りになって見下ろして言う。
「哀沢くんと、エッチしたい!!」
そう言ってキスをした。
唇を動かし、舌を絡ませ、これ以上無いぐらい口と口を密着させて息継ぎも出来ないほどの。
途中で俺はキスを中断して問いかける。
「言うからには俺を満足させられるんだろうな?」
山田は俺を少しだけ見つめて、返事の代わりに再びキスを続けた。
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