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玄愛Ⅲー文化祭編ー《炯side》2

―放課後― 「哀沢くーん」 部室へ行くため廊下を一人で歩いていると、聞き覚えのある声に呼び掛けられた。 振り返ると、ピンクの長い髪の毛をした女がいた。 誰だ、こいつ? 「ナイスタイミング!いま会いに行こうとしてたんだよ」 「………………山田?」 上から下まで10秒ぐらいかけてゆっくりと確認して、声と雰囲気でなんとなく山田だと分かった。 「メイクしてもらったの。本番これで司会やるんだ。どお?」 「…普通」 「ふーつーうー?」 毎年山田は文化祭で女装しているし、いつものことだろ。 何を期待しているのか。 というか早く部活に行きたい。 「可愛いと思わないの!?みんな可愛いって言ってくれたよ!?女子もルイちゃんもアヤちゃんも!みんなみんな!」 あぁなんだ、可愛いって言ってもらいたいのか。 山田の求めている回答が分かっていても、今の俺はそれを口にする気は無かった。 なぜお前に怒られる筋合いがある? 「よかったじゃねぇか【可愛い】って言ってもらえて」 「え?」 「お前は可愛いって言ってもらえればいいんだろ?よかったな」 山田は俺の回答に少しだけ驚き、すぐにそれが怒りに変わったのが分かった。 「そうだよ、皆可愛いって言ってくれる。哀沢くんとは違うもん。こんな俺だと誰かを誘惑しちゃうだろうし、俺が誰かに襲われて抱かれてもおかしくないんだからね!」 何を言ってるのかよく分からなかった。 とりあえず俺に可愛いと言って欲しかった、けど思い通りにならなかったからムキになっていることは理解できた。 「哀沢くんのバカ!もう知らない」 翌日から山田が俺に声をかけることは無かった。 お前がそうくるのなら、俺からも話すことはない。 約束も破られ、実行委員になった挙げ句に一人で苛々されて。 それから山田とは会話もせずに文化祭当日になった。 「哀沢先輩ドラキュラっすかー!まじかっけぇ。写真撮っていいですか?」 「撮るんじゃねぇ」 「先輩のクラス、ハロウィンテーマですもんね。時期的にぴったり」 バスケ部の後輩がたこ焼きを焼きながら嬉しそうに俺に話しかける。 バスケ部の出し物は、たこ焼き、体育館で来客者とフリースロー対決。 俺はフリースローを担当したかったが「先輩手加減出来ないじゃないですか。客が悲しみます」という理由でたこ焼きゾーンを任された。 といっても暗算が得意なため、呼び込みと会計担当。 「呼び込みなんて出来ねぇぞ」と言ったが「立ってるだけで呼び込みになるから」という理由で会計のみ担当。 「あと気になってたんだがたこ焼き6個500円、撮影1枚込み800円ってなんなんだ?」 「先輩昨日打ち合わせちゃんと聞いてました?」 正直打ち合わせ中はほとんど部員に任せて俺は話を聞いていなかった。 説明を聞くと、たこ焼き+写真撮影1回で800円らしい。 「需要ねぇだろ」 「すいませーん、たこ焼き1つと…写真撮影もいいかな?」 声をかけられて振り返ると、テニス部の顧問の女教師だった。 「あざーっす!ほら先輩写真撮って。呼び込みが撮影の仕事っす」 おいおい、需要あんのかよ。 「俺でいいんですか?」 「哀沢くんがいいの」 そう言われ、自撮りで写真を撮るテニス部の顧問。 「嬉しー!みんなに自慢してこよーっと」 そう言ってその場を去っていった。 バスケ部の出し物の出店エリアを決めるとき、人気の無い端のステージの一番端にした。 なぜならあまり人が来ない場所で楽をしたかったから。 それなのにこんな場所を見つけて来るとは…ちゃんとパンフレット見てるんだな。 そして30分後ぐらいから、その教師のせいで色んな客が来てしまった。 「撮影2回したい場合はどうしたらいいの?」 「撮影のみはいくら?」 などなど、打ち合わせに無いことが飛び交う。 撮影2回目からは+200円、上限は5回まで。 撮影のみは禁止ということが急遽決まった。 「たこ焼き2つと撮影3回」 「たこ焼き3つと撮影4回」 俺の頭がフル回転する。 くっそ… 朝から朝練で15km走らされたうえに、前日まで打ち合わせ。そして今だ。 まじで休まらねぇ。 「おい!俺の店番昼までだったよな?次たこ焼き切れたら交代な」 「えー、めっちゃ稼げるのに」 「部活のメニューきつくするぞ?」 「いやー、今以上きつくされたら死ぬ!部長勘弁してくださいそれは」 それから店番をこなし、俺の出番はもう無いので保健室で仮眠することに決めた。 保健室まで行く途中で、綾に遭遇した。 「炯!…サボり?」 「いや。俺の時間は終わったから保健室で寝てくる」 「お前なぁ…雅鷹のところに行ってやれよ。あいつ泣いてたぜ」 「…山田に泣く権利なんてねぇよ。約束を破られたのは俺のほうだ」 「は?何だよそれ。そんなこと雅鷹言ってなかったぞ」 「まぁ、山田が忘れてるってことだろ」 結局期待してたのは俺の方なんだ。 綾との会話を終わらせ、保健室へと向かった。

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