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玄愛Ⅲー文化祭編ー《炯side》1
山田は知らない。
俺がどれだけ山田を好きなのか。
付き合ってからも日に日にこの感情が増幅されていく。
自分でも驚くぐらいに、日々山田にハマっていく―…
「俺、文化祭実行委員やる!」
山田は高校最後の文化祭の実行委員に立候補をした。
「じゃあうちのクラスの実行委員は山田と綾でいいんだな?」
「やるやるー」
「燃えるぜ」
山田は去年の文化祭終了後に「来年も一緒に文化祭回ろうね!約束!絶対だよ、絶対」と言っていたことを忘れているのか?
確かにあの時はまだ付き合っていたわけじゃない。
でも山田はずっと俺のことを好きなんだからそれを優先すると思っていた。
「最後の文化祭だし、超盛り上げようね!俺今年も女装するー」
「祭りは盛り上げるのが常識。…炯は実行委員やんねぇの?」
隣の席で本を読んでる俺に綾が問いかけた。
「…面倒だ。やらねぇ」
「だろうな」
実行委員じゃなくても準備が大変なのは知っている。
部活もやりつつ、そのうえ実行委員になんてなったら自分の時間がなくなる。
「雅鷹、良いこと思い付いた」
「あのねぇアヤちゃん。良いこと思い付いたっていう人の考えは大抵はたいしたこと考えてないんだよ」
「いいから」
そう言って、山田の耳元でその思い付いた良いことを綾が囁く。
「…無理じゃない?」
「まぁまぁ、もしかしたらさ」
「別にいいけど」
そんな二人の姿を見ているのも不快に感じる。
綾には愁弥がいるっていうのに。
何を嫉妬することがあるんだ。
「実行委員まじで忙しいから覚悟しとけよ」
「了解♪」
「山田、綾。さっそく生徒会室に集合だ」
教卓に立っていた愁弥が二人の所に来てそう言った。
「え?授業…」
「バーカ、実行委員は特別に時間割りが変わるんだよ」
「山田…聞いてなかったのか?」
実行委員は特別時間割りが変わると言っていた。
さっそく今日からなのか。
「今日から約1ヶ月、実行委員は1日の授業の半分以上は文化祭の準備だ」
「えー!」
どうやら山田は聞いていなかった様子。
聞いてなかったのなら仕方ないか。
知ってて立候補したのなら、俺との時間よりも準備を取ったことに対して腹が立ちそうだったから。
少しだけ許せる気がした。
少しだけ。
「あ…哀沢くんも一緒に実行委…」
「頑張れよ。実行委員」
俺は山田の言葉を遮り、一瞬だけ山田を見てまた本を読み始めた。
「じゃあ雅鷹は俺が預かるわ。じゃあな炯くん」
「あぁ」
綾が席を立ち、山田を引き寄せて挑発してくる。
「哀沢くん…」
「行くぞ雅鷹」
そして山田は教室を後にして、生徒会室に向かった。
―昼休み―
「哀沢くーん」
教室で弁当を食べてる俺の元に山田が駆け寄ってくる。
山田が実行委員の中でも一番大変な総合司会になったと聞かされた。
少しだけ許していた感情も見事に消え失せる。
そして俺の机の目の前に立って、両手を自分の頬に当てて「俺、可愛い??」と言ってきた。
「…」
俺はその姿を見て目線を弁当に戻して言った。
「…普通」
俺の回答にショックを受けている様子だった。
可愛い、と言うのが正解なんだろうけど。
別に公衆の面前でそんなこと言う必要もないだろ。
「なんだよ急に。それだけ言いに来たのか?」
山田は少しだけ放心状態。
そんな時、2年の足利が教室にやってきて山田に声をかけた。
「雅鷹さん、お昼終わりましたか?職員室までこのまま一緒に行って打ち合わせ…」
「あー!極悪裏表メガネ !ちょうど良かったとりあえず殴らせて!」
そういえば足利と一緒に総合司会をやると言っていたな。
総合司会…か。
「なぜですか」
「もうAB型の言うことは信用しない!」
「雅鷹さんもAB型じゃないですか」
昨年綾が総合司会をやっていたが、本当に地獄でやらなければよかったと言っていたのを思い出した。
ただでさえ忙しい実行委員。
更に忙しい総合司会。
山田は俺と一緒にいたくないのか?
「俺はいーのっ。じゃあジュースおごって。今俺のHP1だから。ルイちゃんのせいで」
「なぜですか」
「じゃ殴らせて」
「だからなぜですか…」
一方的に喧嘩をしながら、山田は教室を後にした。
そんな姿を遠くから見ていた綾が俺に近づく。
「心配?不安?嫉妬?」
「いや…別に楽しそうでいいんじゃねぇの?」
「おー、余裕だねぇ」
綾は確実に俺たちのすれ違いを楽しんでいる。
「実行委員にならなかったことを後悔するんだな。じゃ俺も打ち合わせ行ってくるわ」
綾はそう笑いながら教室を後にした。
うるせぇな、どいつもこいつも。
―…『余裕だ』なんて誰が言ったんだよ
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