15 / 47
第15話 どういう風の吹き回しでしょう?★
「僕は、自慰をするだけで周りの魔族を巻き込んで殺してしまうんです」
「……は?」
バーヤーンがこちらを見た気配がする。いきなり何を言い出す、と思っただろうか。ニコはぐす、と鼻をすすると、腕で涙を拭った。
「きみを、殺さずに済んだと思ったらホッとして……」
お父様との約束なんです、とニコは続ける。
「無駄な殺しはしないって。お父様も『洗礼』を受け、その理不尽さと痛みが分かるひとでしたから」
「お父様って……王族だろ? 馬鹿か手を出したそいつら」
自分を棚に上げてそんなことを言うバーヤーンに、ニコは軽く笑った。身体の揺れが繋がっているバーヤーンにも伝わったらしく、彼は軽く息を詰める。
「でも、その時にお父様は助けられたから僕が産まれたんです。そのまま放置されていたら、僕はこの世にいなかった」
「……」
だから『洗礼』を止めさせたいんです、とニコは伝える。バーヤーンに全部は理解できなくても、自分の信条は知っていて欲しい、そう思った。
彼に背を向けているので、バーヤーンはどんな表情をしているのかは分からない。でも黙ったまま聞いてくれているので、少しは伝わったかな、なんて思う。
すると、前に回ったバーヤーンの腕がきつくなった。同時に軽く揺さぶられて、声を上げてしまう。
「はあ……萎えるわ」
「あっ、や……っ、……萎えてなんかないじゃないですかっ」
言葉とは裏腹に、バーヤーンの熱は上がっていった。そしてすぐに息を詰め動きを止める。その間もギュッときつく抱きしめられ、耳元で弾んだ吐息を聞かされニコは震える。どうやら彼はまた、ニコの中に熱を放ったらしい。
「きみを殺したら、悲しむ魔族がいるでしょう?」
そう言い、バーヤーンの顔を見ようと振り返った。そしてドキリとする。
興奮で頬は赤くなっていて、綺麗なグレーブルーの瞳は静かに、けれど激しい感情を湛えてニコを見ていた。半開きの唇からは熱く湿った吐息が出ていて、ニコの頬に当たる。
完全に、ニコに欲情している顔だった。
自分の誘惑の力は、バーヤーンをこんな表情にさせるほど強いのか。
ともすれば唇が触れそうなほどの距離で、少しの間見つめあってしまった。ニコは動けず、バーヤーンの顔がさらに近付いてもそのままでいた。
「──い……っ、た、ああっ!」
唇に触れるかと思ったバーヤーンの唇は、少しずれて顎骨を噛んでくる。そのまま彼は動物のように唸りながら、ニコの孔を激しく突いた。
「だからこんなに飢えてんのか……それで俺がおびき寄せられてんだな……っ」
いいぜ、利用されてやる、とバーヤーンはまた唸って中に雄の証を放つ。すると、下腹部からぶわっと熱が全身に広がり、ニコは全身を痙攣させながら絶頂した。
「……っ」
はあはあと、二人して落ち着くまでそのままでいると、バーヤーンが後ろから抜けていく。それすらも甘い刺激になり、ニコはビクビクと背中を反らした。
「はは……いい眺め」
バーヤーンはニコの尻の肉を掴んで広げている。三度も達した精液はすぐに溢れ出て、ニコの白くて柔らかい太ももを汚していった。熱い体液が身体を伝う感触にすら震え、ニコはズルズルとその場にしゃがみこむ。
「快 かったか? 淫魔様」
悦いなんてもんじゃない。こんな、あらゆる刺激がすべて絶頂へ向かうようなほど感じられるのは、やはりとても相性がいいのだと思う。
「おい」
ぐい、と髪の毛を掴まれ顔を上げさせられた。身だしなみを整えたバーヤーンが、ニコのそばに座っている。その顔は、意外と真剣だった。
ニコは視線を逸らして呟く。
「……笑わないですか?」
「聞いてみなきゃ分かんねぇ」
ニコはジワジワと顔がまた熱くなった。実は夢でも現実でも、まだバーヤーンとしかしたことがないと言ったら、彼は笑うだろうか。インキュバスなのに実はキスもしたことがないのだと、言ったら馬鹿にされそうだ。
「……ふーん?」
「な、なにニヤニヤしてるんですか……」
どうやらニコの反応で、バーヤーンは何となく勘づいたらしい。
「きみは慣れていますよね……」
「あ? こんなもん遊びだろ」
なんの臆面もなくそう言うバーヤーンは、ニコとはまったく考えが違うことに気付かされる。バーヤーンは立ち上がると、気持ちよさそうに伸びをした。
「身体が軽い。お前とするのもメリットがあるってことか」
じゃあこれからは校内での『洗礼』は止める、とバーヤーンは言う。またどういう風の吹き回しだとニコは眉根を寄せるけれど、彼は「倒すより、取り入った方がいいと判断したんだよ」と笑った。
「……きみはどうして、そこまでして力を見せつけたいんですか? 見る限り、弱いものいじめはあまりしていませんよね?」
「前も言っただろ、必要だからだ」
「だから、どうして?」
「……それ以上聞くならもう相手しないぞ」
思ったより頑なな態度のバーヤーンに、ニコは黙るしかない。すみません、と謝ると、彼はふん、と鼻を鳴らして去ろうとする。
「あ、あの!」
ニコが呼び止めると、彼は素直に振り向いてくれた。力が入らない手を必死に突っ張るけれど、まだニコは下半身が丸出しだ。
でももう今さらだ、と彼に思い切って問いかける。
「足に力が入らなくて……屋敷まで送ってもらえないでしょうか?」
バーヤーンに「腰が抜けたとか……!」と笑われたのは言うまでもない。
ともだちにシェアしよう!