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第14話 僕にとっては大きなことです★

 四日ぶりに学校へ行くと、校舎の一部が破壊されていて、修復工事が行われていた。  なんでも、バーヤーンがまた『洗礼』で破壊したらしい。  またあいつか、と思ったけれど、今のニコには咎める気力がない。 「そう言えば、ニコ様がお休みされていた時、魔王様が視察にいらしたんだよ」  珍しく話しかけてきたクラスメイトに話を聞いていたら、彼は少し興奮気味に教えてくれた。 「俺初めて魔王様を間近で見たけど、すごくカッコイイな! ニコ様もそっくり!」 「あ、はは……そうですか」 「俺もいつか魔王様の元で働きたいって思ったよ」  家族を褒められるのはやぶさかではないが、ニコの苦手な祖父の話だ。曖昧に反応するけれど、クラスメイトは気にしていないのかご機嫌で去っていく。  祖父は生まれながらにして、高い魅力と魔力を備えた魔族だった。遠縁である祖母とはパーティーで初めて会った時、一瞬で恋に落ちたそうだ。  以前に馴れ初めを聞いた時、祖母はサキュバスだから誘惑したのかと聞いたら、「そんなめんどくさいことしないわよ」と返ってきたので、二人は本当に愛し合っているらしい。  そんなふうに悶々と考えていると、あっという間に一日の授業が終わった。今日は平和だったなと席を立って教室を出ようとすると、出入口を塞がれる。 「……何ですか?」 「何ですかじゃねぇ。ちょっと来い」 「え、ちょっと……!」  出入口を塞いだのはバーヤーンだった。しかも有無を言わさず教室から連れ出され、何なんだ、と声を上げる。しかし彼は無視し、ニコの手首を掴んでグイグイと引っ張っていく。堪らずニコはその手を振りほどいた。 「先に要件を言ってくださいっ」 「うるせぇ、つべこべ言わずに来い」  バーヤーンは今度はニコの胸ぐらを掴んだ。再びグイッと引っ張っていき校舎裏へ来ると、ニコを壁向きに押し付ける。 「え? なに? ちょっと!」  バーヤーンはニコのうなじ辺りでスンスンと匂いを嗅いだかと思うと、チッと舌打ちをした。 「朝から鬱陶しいんだよ、こんな強烈な匂い振り撒きやがって……」 「はぁ!?」  驚きながらニコは振り返る。けれどバーヤーンに身体を戻され、再び壁の方へ向かされた。  また無自覚だ。まったくの無自覚だ。こうも何度もバーヤーンに匂いがすると言われたら、ニコは無自覚に誘惑の魔法を発動しているのだろう。けれど、そうなら近くにいたクラスメイトや教師も、香りに寄ってくるはず。 「……」  ニコはハッとした。今日は珍しくクラスメイトが話しかけてきた。いつもは遠巻きに見ているのに。  すると、後ろでカチャカチャと音がする。まさかと思って逃げようとしたけれど、やはりまた壁に押し付けられた。  後ろではすでにふー、ふー、という荒い呼吸が聞こえる。間違いない、バーヤーンはニコの誘惑の香りに寄ってきたのだ。 「朝から全然『洗礼』に集中できねぇし……もう我慢できねぇ」  バーヤーンはニコのズボンを寛げる。咄嗟に手で押さえるけれど、耳を噛まれて身体が逃げ打った隙に下着ごと下ろされてしまった。  どうしてバーヤーンだけに、こんなに強く誘惑が効くのだろう? それはやはり、相性がいいということなのだろうか。  それとも、バーヤーンはとても鼻が利く魔族なのかもしれない。そうだ、そうに決まってる。 「く、……あ……っ」 「ああくそ、夢の中みたいに、すんなりいかねぇな……っ」  メリメリと、肉襞を割って無理やり入ってくる肉棒は、夢で繋がった時よりも熱くて凶暴だった。その熱さ、硬さにニコはゾクゾクして、足が震える。  はは、と耳元で笑う声がした。 「挿れただけでイきそうなのか? 淫魔様」  ピタリと腰を合わせ、囁いてくる声は低くてなまめかしい。ニコは声も上げられず、せり上がってくる何かに耐えるしかない。  ガクガクと膝が笑って、腰も震えた。 (だめだ、いく、いくいくいく……!)  せり上がってきた何かが脳に達した時、ニコは背中を反らして全身を震わせる。 「ひぐ……っ!」 「……っ、はは、本当にイきやがった……」 「はぁ……っ、あ……、あぐ……っ」  バーヤーンが軽く腰を揺らす。それだけで全身が愛撫されているかのように鳥肌が立ち、また視界と意識と音が途切れた。 「そんなに飢えてたのか? 王族なら引く手あまただろ」  耳に直接吹き込んでくる声は楽しそうだ。けれど余裕がなさそうにも聞こえる。  ニコは頭を振った。 「殺したく、ない! あ! あああ……っ」 「まーだ言ってんのか、そんなこと」  ガクガク! とニコの腰が震え、壁に精液がべったりと付く。足が震えすぎて立てなくなり、ズルズルとしゃがみこみそうになると、バーヤーンは腰を掴んで立たせようとしてくる。 「だ、ダメだっ、立てないっ。……もういいだろ! 本当にきみを殺したくないんだ、止めてくれ!」  産まれたての子鹿のように足を震わせ、壁に凭れてそう訴えると、バーヤーンはピタリと動きを止めた。 「……生まれながらに何もかも持ってるお前が、甘いこと言ってんじゃねぇ!」 「うぅ……っ! ぐあ……っ」  勢いよく最奥を突かれたと思ったら、中がじわりと熱くなる。耳元で呻きながら達するバーヤーンの声に、ニコは身体を震わせた。  バーヤーンが、いった……。自分の中に……夢の中でじゃなく。  初めて、殺さずに現実世界で繋がれた。自分の意思を無視され犯されたことよりも、それはニコにとってとても大きなことだった。先日何十人と殺してしまったばかりだから、余計にホッとして情けないほど泣いてしまう。 「う……、っく……」  すると、バーヤーンがニコの身体を抱きしめてきた。しかしそれは甘い抱擁ではなく、盛大なため息つきで、呆れているのがよく分かるものだ。しかも彼はまだニコの中に入ったまま。萎えないそれにニコがまだ誘惑しているのだと気付く。  バーヤーンは一度達して少しは落ち着いたらしい。ならば少しは話ができるだろうか。そう思ってニコは口を開いた。

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