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第18話 やはり暴力はいけません★
学校に近付くに連れて、ニコは嫌な予感が大きくなっていった。なぜなら大きな声や物音が、学校から聞こえてきていたからだ。
「なにごとですか!?」
校門をくぐると校庭に人だかりができている。ニコはすぐさまその人の山を掻き分け、その中心で何が起きているかを把握した。
「バーヤーン!」
彼は一人のぐったりした魔族の襟首を掴みながら、次々とやってくる魔族を蹴散らしている。彼に掴まれた魔族は屈強な身体つきで、確か教師だったはず。その頭は見た目でも分かるほど陥没し、既に事切れているようだった。
しかし、バーヤーンは周りを蹴散らしながらも、合間にその教師を殴り続けている。
ニコは躊躇うことなくその間に入っていった。
「止めろ!」
バーヤーンに立ち向かう魔族は、生徒も教師も入り混じっている。どうしてこんなことに、と思うけれど、まずはバーヤーンを止めるのが先だ。
ニコの一声で数人の魔族が動きを止める。けれどそれでもまだ乱闘は収まらない。すうっと大きく息を吸い、腹に力を込めて叫ぶ。
「止めろ!!」
それでバーヤーン以外の魔族が止まった。けれどバーヤーンは変わらず事切れた教師を殴り続けており、その拳は皮膚が破れて血が滲んでいる。その彼の表情に現れていたのは──怒りだ。
血走った瞳は鈍く光り、手に掴んだ教師だけを見ている。ニコが近くに寄って声を掛けても聞こえていないのか、荒々しい呼吸をしながら相手の顔を殴っていた。
「バーヤーン! 止めろ!」
ニコはバーヤーンの手首を掴む。けれど彼はまだ唸りながら殴ろうとするので、後ろから羽交い締めにした。それでもまだ彼は無言で抵抗し、ニコの拘束を振り解こうともがく。
「バーヤーン!!」
彼の力は相当なものだった。とにかくニコはこれ以上彼に殴って欲しくなくて、必死で彼を抑える。
すると、すとん、と意識が落ちる感覚がした。辺りを見渡すとやはり、空と草原しかない景色が広がっている。
「バーヤーン……」
バーヤーンはニコに抱きついていた。震えた吐息を聞いて、ニコは彼の背中を撫でる。
「……何があったんですか?」
彼は顔を見せなかった。けれどその吐息と、時折身体が震えて漏れる声に泣いているのだと判断する。
普段のバーヤーンの立ち振る舞いからは想像できない態度だ。
バーヤーンの腕に力が込められた。ニコは苦しい、と思いながら彼が話すのを待つ。
ここは淫夢の中でお互い裸なのに、今は色っぽい雰囲気は皆無だ。
「俺が弱かったばっかりに……弟たちを……守れなかった……!」
やがて振り絞るような声で言ったバーヤーンの言葉にドキリとした。まさか、バーヤーンの弟たちに何かあったのだろうか。
バーヤーンは続ける。
「あのクソ教師に殺された! お前は調子に乗り過ぎだって……!」
彼がギリ、と歯ぎしりをする音がした。双子の弟はとある場所に隠れていたのに、見つかってしまったという。
合わせた肌から彼の怒りが、悲しみが、悔しさが伝わってきて、ニコもバーヤーンを抱きしめる腕に力を込めた。
──彼を慰めたい。
声を押し殺して泣く彼に、ふと、そんな感情が湧いて出てくる。
「俺の弱点を知られた、俺の落ち度だ……っ」
バーヤーンは彼が言った通り弟たちを……弱い者を守るために暴力を振るっていたのだ。対してニコは、弱い者を守るために暴力を止めようとしている。
根っこは同じなのだ。だから彼とは必ず分かり合える。ニコはそう思った。
ニコはもう一度、彼の背中を撫でる。肩を震わせたバーヤーンは呻いて腰を引いた。ニコが手を伸ばすと、そこには硬い肉棒がある。
よかった、ちゃんと誘惑が効いているみたいだ、とホッとした。自ら誘惑したのは初めてで少し緊張したけれど、ちゃんと感じてくれてるんだ、とその熱を柔らかく握って手を動かす。
「……っ」
びく、とバーヤーンが背中を反らした。そしてさらにニコにしがみついてきたので、ニコは優しく、宥めるようにそこを撫でる。
インキュバスだからこんな慰め方しか分からないけれど、泣いているバーヤーンに寄り添いたいと思ったのだ。本当は優しいバーヤーンを、ニコはこの時初めて、ハッキリそばに置きたいと思った。
「……っ、やめろ……」
バーヤーンが獣のように呻く。扱いていたニコの手を取られ、彼は顔を上げた。サラサラのグレーブルーの髪は乱れていたけれど、泣いて赤くなった目には強い意志を感じた。綺麗だなと思ったその瞳が、少し傾いて近付く。
そして唇が触れるかと思った瞬間。
「い……った!」
頬に噛みつかれニコは声を上げた。そのままベロリと舐められ、肩を竦めると「挿れさせろ」と低い声がする。
「……いいですよ。ほら、……来てください……」
ニコは草むらの上に仰向けになり、足を広げて後孔を見せた。これで彼の気持ちが少しでもスッキリするなら、と積極的に誘ってみせる。
バーヤーンはフラフラとしながら膝立ちになって、ニコの足の間に入ってきた。彼の怒張は既に先走りを溢れさせていて、太い幹には力強く脈打つ青筋が浮いている。アレが入って突かれた時の快感を思い出して、ニコの後ろはひくついた。
早く繋がりたい。そう思ってニコは両手を広げ、バーヤーンを迎え入れた。
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