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第19話 答えが見えた気がします★

 メリメリと、熱く滾ったものが入ってくる。ニコは呼吸を整えようとしながらも、バーヤーンの顔をじっと見ていた。  彼もニコをじっと見ている。グレーブルーの瞳は欲情で鈍く光り、頬が赤い。開きっぱなしの口からは、は、は、と弾んだ吐息が漏れていた。ニコはそんな彼の表情が可愛いと思い、意図せずきゅん、と後ろが締まる。 「う……っ」  途端に顔を顰めるバーヤーン。少しキツいか、とニコは優しく彼を包むように心掛けた。すると今度はアゴと背中を軽く反らし、バーヤーンははあ、と甘く息を漏らす。 「バーヤーン……」  不思議と、今までとは違いニコは冷静に彼を見ていた。この夢の中で、一時的にでも彼の悲しみと怒りを忘れて欲しい。そう思ってニコはバーヤーンに手を伸ばす。  びく、とバーヤーンが肩を震わせた。はあはあと息を乱しながら楔をすべて埋め込み、呻きながらこちらに身体を倒してくる。  バーヤーンの長い髪がさらり、と落ちてきた。カーテンのようにニコの顔の横に垂れ、互いの吐息が顔に当たるほどの至近距離で見つめ合う。  ふわり、とバーヤーンの手がニコの頬に触れた。その手は優しく、大切なものを扱うように撫で、それからニコの漆黒の髪を梳く。  先程から彼は何も言わない。ニコの誘惑が効いているからか、優しい手つきで何度か頭を撫でると、入っていた熱をゆっくり引き抜いた。 「あ……っ」  ゾワゾワして目を細めると、同じようにバーヤーンも目を細める。きみも感じてくれているのか、と目で訴えると、バーヤーンはニコの目尻をそっと拭ってくれた。どうやら涙が出ていたらしい。  ゆるゆると動くバーヤーンは、こちらを気遣っているようにも思えた。だからなのか、彼は苦しそうに顔を歪め、時折休んではまた動き出すを繰り返す。  そんな彼にニコは、遠慮しなくていい、好きに動いていいと思って顔を引き寄せた。途端にぐん! とニコの中のものが体積を増し、バーヤーンは声を上げながら勢いよく貫いてくる。 「あ! ……ああっ!」 「う……っ、ぐ……!」  そうだ、きみの思う通りに動いてくれ。そう思ってやってくる絶頂への期待に身体を震わせると、バーヤーンがまた顔を上げた。そこにもう遠慮はなく、いつもの獰猛な彼の顔がある。開いた口から覗く舌と牙が情欲を煽り、それらに蹂躙されたいと思っていたらバーヤーンの顔が近付いた。 「ああっ!」  再び頬に噛みつかれ、それすらも快楽になりニコは絶頂する。うう、うう、と唸りながらパンパンと腰を打ち付けてくるバーヤーンの耳に触れると、乱暴にその手を取られ噛みつかれた。その手の皮膚がぷつ、と破れ血が滲む。  そうだ、その怒りを僕にぶつけろ。  そう願ったら目尻から涙が落ちた。悔しいだろう、悲しいだろう。それを全部僕にぶつけろ、受け止めてやる、とニコは中に放たれた熱を零さず受け止める。 「……っ、ううっ……」  達したバーヤーンはニコの手から口を離すと、その手を自分の頬に当てて涙を落とした。ニコは大切な人を想って流す涙は、うつくしいんだな、と思う。 「バーヤーン……僕の、……夜伽の相手になってくれませんか?」  そこから王族に仕える足がかりを掴めばいいです、とニコは続けた。弟たちのために成り上がりたかった彼だが、そのための大きな理由がなくなってしまった。けれど、これだけの魔力と野心を持っているのに、ただの貴族にさせておくのはもったいない。ニコはそう考える。  そしてもうひとつ理由がある。ニコは彼がもう暴力を振るわないように、と思ったのだ。夢に誘う前のバーヤーンは、心にも身体にも傷を負っていた。それを見るのは辛い。  そう思ったら、ニコのやるべきことが少し見えた気がした。やはり力には力だ。けれどそれは誰も傷付けない方法でやる。ニコの信条に(のっと)って。  とはいえ、魔王継承者がひとりの魔族に情を傾けるのは争いの元になる。だからこの方法が一番いい、とニコは決意した。  本当は優しい、バーヤーンを守るために。  そんな気持ちがストンと胸に落ちた時、ニコはそうか、と納得する。自分は市民を守りたいだけでなく、バーヤーンを特別に守りたい。守る者のために、強くあろうとする彼をそばで支えたい。  それは、ニコの中で初めて芽生えた感情だった。  バーヤーンは少しボーッとした顔で、ニコの肩口に顔をうずめてくる。ああ、と吐息のように返事をされ、スンスンと匂いを嗅いでいたと思ったら次にはスースーと寝息を立てていた。  夢の中で寝るなんて器用な魔族ですね、とニコは笑う。身体の中に入ったバーヤーンは力を失いつつあったけれど、もう少しこのままでいたい、と彼の頭を撫でた。  そばにいたい、好きだと思うこの感情は身体の相性だけでは説明がつかない。初めての感情は甘くて、温かくて、そしてニコを切なくさせる。複雑な心の移ろいを感じたニコは、じわじわと顔が熱くなるのを自覚した。  これが恋というものか、と。

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