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第23話 夢であってください★

 その日の夜、正式にニコが魔王継承者第一位として、魔界に通達される。突発的に開かれたパーティーに顔を出すように言われ、ニコはぐったりして帰ってきたのだ。 「ニコ、大丈夫か?」 「ええ。……しかしみんな同じ質問をしてくるとは思いませんでした」  パーティー出席者は一様に、ニコのお相手、ひいては世継ぎを産む女性がいるか質問し、紹介すると言ってきた。民の関心があることはいいけれど、それが物の見事にひとつとは、と身支度が済んだニコはベッドに倒れ込む。  久々に会った魔王も、公の場だから大人しかった。そのうつくしさで魔族を魅了し、これが孫だからよろしくと言えば、みな従順に頷いていたのを思い出し、アレを自分もやることになるのか、と思う。  確かに、ショウにはできない芸当だ。 (ここ最近、色々とありすぎますね……)  ニコはバーヤーンがいるにも関わらず、意識が落ちそうになって頭を振った。  しかし次の瞬間、また淫夢の景色が広がっていてがっくりする。疲れているのにそういうことはしたいのか、と。 「ニコ、すげぇ香りしてる」  しかも草原のど真ん中に、キングサイズのベッドがどんと置いてあった。ニコはそこに横になっていて、後ろからバーヤーンが抱きしめている。さすが夢の中、思い通りにはならないけれど、都合のいい展開にはなるようだ。  スンスンと匂いを嗅ぐバーヤーンの声は既に掠れていた。ゆるゆると腰を押し付けられ、その熱と固さにニコの身体も熱くなる。  すると、ちゅっと後ろで音がしたのと同時に、うなじや首筋に温かいものが触れた。驚いて振り返ろうとすると、バーヤーンの腰に回った腕がお腹を撫でる。 「え、ば、バーヤーン?」 「ん?」  今までの彼との行為では、愛撫らしい愛撫はなかったと記憶している。どちらかというと噛まれたり、強引にされたりで、こんなに優しい触れ方をされたことはなかった。 「どうした?」 「どうした……って、な、にしてるんですか……?」  ニコが戸惑い尋ねる間にも、バーヤーンはニコを仰向けにさせ、首や鎖骨辺りに舌を這わせてくる。ゾクゾクしてつい、甘い吐息を零すとバーヤーンは息を詰めた。 「また匂いが濃くなった……」 「そ……じゃなくて、なんで……っ」  ニコは続く言葉を発することができない。なぜならバーヤーンの唇が、ニコの小さな胸の突起を撫でたからだ。  くぐもった高い声を上げ、悶える。こんな風に、優しく触れられるのは嫌だ、と思って首を振った。  優しく抱かれたら、自分の想いが飛び出してしまいそうだった。嫌だ、ダメだと精一杯拒否するも、「これが俺の仕事だろ?」と彼はやめてくれない。 (仕事……そうだ。バーヤーンは仕事だからしているんだ)  夜伽の相手とはそういうものだ。快楽を与え、ニコの精気を満たすのがバーヤーンの仕事。これはただの処理にしか過ぎず、そこに特別な想いは必要ない。  けど──……。 「う……っ」  つむった目尻から涙が零れた。自分の身体を這う手が、体温が、自分を想って触れてくれているんじゃないかと、勘違いしそうになる。 「泣くなよ……酷くしたくなる」  それじゃあ仕事にならないだろ、と息が上がった声でバーヤーンは言った。見ると彼は辛そうに顔を顰めている。しかしその目は鈍く光り、ニコの身体を欲しているのは明らかだ。  これは自分が誘惑しているから? それとも……。  そんな考えがよぎり、ニコはまたゾクゾクと這い上がってくる快感に身を震わせる。 「やだ……いやだ! ……酷くしてくれ……っ」 「……っ!」  ニコがそう訴えると、バーヤーンは大きく身体を反らした。ぐぅっ、と唸ってシーツを手が白くなるほど握っている。するとニコの股間も痛いほど勃ち上がり、呻いた。どうやらニコの魔力で二人の感度は連携しているようだ。バーヤーンの様子から、自分は強力に彼を誘惑しているらしいと悟る。 (なんだ……僕が誘惑してるから……) 「あ……っ、くっ……そ……!」  ビュル、と熱いものがニコの鼠径部にかかった。ハアハアと息を乱すバーヤーンの顔は下を向いていて見えない。けれど、触らずにいかせてしまったのは間違いなくニコの魔力によるものだろう。それでも精気を得られたニコはぶるりと全身を震わせ、中から湧き上がる甘美な快感に指を噛んだ。  欲シイ、モット……。  ゾクリとしてそんな欲求が溢れてくる。嫌だ、これは自分の意思じゃない、と勝手に上がって声が漏れる口を両手で塞いだ。  ココニ挿レテ……奥ニ出シテ……──。 「嫌だ……僕は欲しくない……っ! 殺したくない!」  自分の理性とは反対に、足が勝手に開いていく。上にいるバーヤーンも肩で呼吸をしていて苦しそうに喘いでいた。それが次第に激しくなって彼は喘ぎ始める。まずい、落ち着かないと殺してしまう! 「うぐ、ぐああああっ!!」  バーヤーンは喉を押さえて起き上がり絶叫する。そのままベッドの上でのたうち回り、ニコは慌てて彼の身体を押さえようと、手を伸ばした。  けれど、何かに引っかかったように身体が前に進まない。 「嫌だ! バーヤーン!!」  必死で伸ばしたニコの手は、バーヤーンには届かなかった。

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