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第28話 今後の身の振り方です
それから、ニコはバーヤーンにキスをすることを禁じた。愛撫もキスもダメなら何をしたらいいんだ、と呆れた彼に、中に入れて出せばそれで十分です、と答えたら、渋々了承していたが。
彼は従順にそれ以降のセックスでは何も言わず、本当に処理としての行動で、ニコは無感情にバーヤーンの精気を頂く。インキュバスならではで助かったのは、何の準備もなしにバーヤーンを受け入れることができるのだ。後ろを洗ってほぐしてなんてことをしたら、バーヤーンが早く欲しくてねだってしまうかもしれない。そこから自分の好意がバレてしまうかもしれないと思ったから。
そして、学校の掌握は意外とすんなりいった。これはニコの魔力の高さがものをいったのだ。ありがたいことにニコの考えに賛成し、風紀委員も増えて校内のモラルは向上した。
そんな活動の中ニコは、生徒の意見をふまえ魔王に進言する。けれど、魔王からの返事はニコの好きなように、だった。初めからそのつもりで黙っていたのかもしれない、と思うと少し魔王を恨めしく思う。
一見平和な日々が訪れると、このままバーヤーンを魔王に紹介して、早く手元から放した方がいいのでは、と思う。それに、そのタイミングにふさわしい知らせがニコの元へ入ってきたのだ。元々魔王に仕える職を斡旋するまでという話だったから、できれば早い方がいいだろう。
「……という訳で、『洗礼』ではなく、決闘システムを導入したらどうでしょう?」
ある日の放課後、風紀委員も増えて様々な意見交換もできるようになった。やはり野心のある生徒にとって『洗礼』がなくなるのは就職先を奪われるのと同義だ、という意見が出て、みんなで捻り出した案だった。
より強い貴族を倒したら箔が付く。そんな世界だからこそ、戦うのを止めさせることはできなかった。ルールを設け、殺したら無効とし、勝利を収めればニコが魔王に推薦する。領地を広げるか、魔王のそばで働くか、望みを直接魔王に言えるようにする仕組みだ。もちろん、その意見の是非は魔王に委ねられる。
そしてニコは、非力で魔力が高い魔族の救済措置案も出した。決闘ではどうしても力の差が出てしまう。ならば定期考査で優秀な成績を収めた魔族は、必須科目を履修し次第、魔王に仕えるための試験を受ける。それに合格すれば、晴れて就職だ。
また、親の地位や領地を守りたい者もいるだろう。そういった魔族は学校を卒業し、跡を継げばいい、とニコは考えた。
もちろん、これは完璧な案ではないし、デメリットもあるだろう。けれど今まで生徒の身の振り方に何の指針もなかったので、目標を立てやすくなっただけでも画期的だと生徒たちは喜ぶ。
「なんか、ニコ様のお話を聞いていると、ワクワクします!」
「ニコ様が魔王様になったら、私絶対試験を受けますから!」
みんなが口々にそう言うと、ニコは嬉しくなった。僕も魔王様に話を通しておきますね、と微笑むと、その場の生徒が一気に色めき立つ。
「私、ニコ様のためなら死んでもいい!」
「俺も!」
「いえ、自分の命は大切にしてください……」
「ニコ様、なんてお優しい……!」
大袈裟に感動する生徒たちにニコは苦笑していると、そっと教室から出ていく影があった。バーヤーンだ。終始仕事中みたいな彼は、ニコといる時はほとんど喋らない。彼は、こうしてニコが他の生徒たちと話していると、静かに離れていくことが多くなった。
(原因は……僕かな)
ニコはバーヤーンに意識が向かないよう、勉強や学校の規律について考えることに集中している。今しがた提案したのは、人間界の本を参考にして作ったのだ。文化が違う魔界にどこまで通用するか分からないけれど、それはやってみなければ分からない。
そしてバーヤーンとの夜伽も無言で必要最低限なので、やっぱり会話はない。いくら世話係、夜伽役でも会話のない相手では、一緒にいるのもしんどくなるだろう。分かっている、そう仕向けたのはニコなのだから。
(僕はずるいですね。バーヤーンを利用するだけして、時が来ればさよならしようとしてるんですから)
けれど、これも彼が望んでいたことだ。魔王に仕える足掛かりにすると。そして、ニコも自分自身のためにバーヤーンを手放さなければならない。次期魔王として選んだ身の振り方だ。
話し合いで方向性が決まったところでニコたちは帰ることにする。教室のドアを開けると、バーヤーンが壁に凭れて待っていた。
「行きますよ」
そうニコが言うと、彼は無言で付いてくる。校門を出てから走り出すと、土を蹴る音だけがした。
のどかな田園や草木の風景も、もう彼と見ることはないな、と思うと苦しくなった。屋敷に帰れば、バーヤーンにあの話をして、彼とお別れしなければならない。
だんだん街に近付いて行くにつれ、気分も足取りも重くなる。このまま永遠に着かなければいいのに、と思うけれど、そういう訳にはいかなかった。
門扉をくぐると、ニコはバーヤーンを振り返る。息もほとんど乱れていないバーヤーンの顔。ちゃんと見たのは久しぶりだな、とニコは微笑んだ。
「バーヤーン、話があります。付いてきてください」
そう言って、敷地内を歩き出した。
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