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第1話 運命の番が現れた

「あー、やっぱ彩膳庵の彩定食は美味いよな!」 美味いものをたらふく食ってご満悦のオレを見下ろして、オレの物心ついた頃からの大親友、かつ現夫のラルフがくすくすと笑う。 うん、今日もサイコーにイケメン。 シュッと背が高くて、鍛えてるからかそれなりに胸板も厚い。男らしく整った顔のパーツは笑うと途端に優しくなって、おだやかな海を思わせる青の瞳も、短く揃えた少し癖のある金髪も、いっそ王族だと言われた方がしっくりくる、これぞアルファって容姿。 ただそこに突っ立ってるだけでもサマになる、もちろん仕事だってバリバリにできる、しかも優しいと三拍子揃った、オレの最愛の旦那様だ。 「本当にビスチェはここの定食が好きだな」 オレもラルフも俗に言うイイトコロのお坊ちゃんだから、そりゃあ極上の食材を使って手間暇かけて作られた貴族用の食事だって食べ慣れてるし、もちろんそれは美味いは美味い。 でもオレは、こういう街の定食屋さんが作ってくれる、安くてボリュームたっぷりで、あったかい感じがする料理の方が断然好きだった。 「うん、大好き。特にお前と食うと、気ぃ使わなくて済むからなおさら美味い!」 「そりゃどうも」 冗談めかして言ったら、ラルフも何食わぬ顔で返してくれる。幼い頃から続けてきたこんな何気ないやりとりすら未だに楽しいと思えるって、やっぱりそれだけコイツの事好きって事なんだろうなぁと我ながら笑えてしまう。 「ラルフはこれから登城だろ? 遅いのか?」 「ああ、今日は割と重い案件があるからな。夕飯は先に食べておいてくれ」 「ラジャ」 迎えの車が来て、ラルフがそれに乗り込もうとした時、ふと思い出した。 「ラルフ、今日はオレ行きたい店があってさ、途中まで一緒に行っていい?」 「ーーー……」 「ラルフ?」 珍しく返事が返ってこない上に、ラルフが車に乗り込もうとした姿勢のまま固まってるから、あれ? と思ってラルフの視線の先を追って……オレは息を呑んだ。 『運命』だ。 一目でそれと分かった。 だって、ラルフの目が捉えてるのは、華奢で儚気でふわふわな髪の、見るからに可愛らしいお嬢さんだ。 しかも、向こうも大きな目を溢れ落ちそうなくらいに見開いて、ラルフを一心に見つめている。 ああ、ついに。 オレは悟った。 オレの最愛の夫に、『運命の番』が現れたんだ。 頭をでっかいハンマーでぶん殴られたような衝撃があったけど、彼女が慌てたように踵を返して向こうの方へと走り出したから、オレは思わず叫んでいた。 「何やってるんだラルフ! 追いかけろ!」

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