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第2話 覚悟していた筈なのに

「!!!」 オレの声に、ラルフがハッとしたようにオレを見た。 「見失っちまう! 早く! 追いかけないと!」 「……」 ラルフはオレを見つめたまま僅かに口を開けて、また閉じる。そしてそのまま目を逸らした。 「いや、大丈夫だ」 「大丈夫なわけあるか!」 目を逸らしたまま車に乗り込もうとするラルフの腕をぐっと掴んでひっぱったけど、オレごときの力じゃビクともしない。 「ラルフ!」 「今日は重要な仕事がある」 「はあ!?」 何やってんだ! このままじゃ見失う、と焦ったオレは少しだけ離れて立っていたオレの侍従兼護衛、マークに目を向けた。 目が合っただけでオレの意図を理解したらしいマークは、音もなく人混みに紛れていく。アイツなら、彼女を見失うこともないだろう。 少しだけホッとして、オレはラルフの横に乗り込んだ。車のドアが閉められて、音もなく車が走り出す。 静寂に耐えかねて、オレは重い口を開いた。 「……あの娘、お前の『運命の番』だったんだろ?」 「別に、『運命の番』と決まったわけじゃない」 オレの方すら見ずに、ラルフはポツリとそう言った。 無理しやがって。ガキの頃からずっと、ずっと、探してきた『運命の番』じゃねぇか。ここで逃してどうするんだよ。 「こんな時まで仕事、仕事、じゃねぇだろ……二度と会えなくなったらどうするんだ」 「あっちも男連れだった。事を荒立てる必要もないだろう」 「そっ……か……」 気が付かなかった。そりゃこんな往来で『運命の出逢い』は出来ないか……。 それきり会話も出来なくなって、気まずい空気のままラルフは登城して行ってしまった。もはや出かける気にもなれなくて邸に戻ったオレは、ウロウロと部屋の中を彷徨きながら悶々と思考を巡らせる。 ずっと覚悟していた筈なのに、いざこうなるとどうしていいか分からない。 はぁ、とひとつ大きなため息をついて、オレはドカッとデカいソファに身を預けた。 *** オレとラルフは、物心ついた時からの幼馴染だ。 二人とも伯爵という家系に生まれ、親同士の仲も良かったもんだから、なんなら赤ん坊の頃からしょっちゅう会ってはいたらしいが、もちろんオレは覚えちゃいない。 ガキの頃はオレの方が活発で、ラルフを引っ張って邸の中から外まで探検しまくって、よく二人揃って爺やにゲンコツ貰ってたっけ。そんな懐かしい事まで思い出して、胸がほわっと暖かくなった。 いつだって一緒で、もちろんケンカだってたくさんしたけど、ずっと一番の親友として生きてきたんだ。

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