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第20話 突然の来訪
「ぐ、あ、あ……!」
苦し気にラルフが唸る。
ほぼ同時に、邸の中が急にざわめき始めた。
「ど、どうしたんだ、ラルフ!」
「っあの女だ……! あの女が……!」
「あの女……? うああっ!!?」
急にラルフがすがりつくようにきつく抱きしめてきて、ガチガチのままの熱杭がオレのさらに奥の奥まで潜り込んでくる。
「ビスチェ! ビスチェ……! 抱きしめてくれ……!」
「ラルフ……?」
ラルフのあまりに必死な様子に、訳が分からないままラルフを強く抱きしめた。そのままラルフが恐ろしい勢いで口づけてきて、貪られるようなキスをする。
「ん……は、ふぅ……」
鼻で息をするのも難しいくらいに熱烈なキスにすぐに何も考えられなくなってうっとりしかけた瞬間、寝室の扉がいつになくせわしくノックされる。
「申し訳ありません、ラルフ様……! 急ぎの客人が」
「今すぐ追い返せ! 二度と来るなと言っておけ!」
呼びに来てくれた執事の言葉をさえぎって、ラルフがいつになく声を荒げる。客人を追い返せ、なんて横暴な事を言い出すなんてラルフらしくない。けれど、その理由はすぐに分かった。
「ですが、ミクス男爵が『ラルフ様の運命の番だ』とご息女を連れておいででして」
あの女性、男爵家のご令嬢だったのか。どうりで気品があると思った。
「ムリヤリ番わせようという魂胆だ……! こちらの了解も得ずに押しかけてくるなど礼を失するにも程がある! 」
「ラルフ、落ち着いて」
「ビスチェ……」
落ち着かせようとラルフの背中を撫でたら、ハッとしたようにオレを見た。クシャっと顔を歪めてオレの首に頬を擦り付けると、震える声で呟く。
「ビスチェ、愛している……。ビスチェを裏切るくらいなら死んだほうがマシだ……!」
「ラルフ……」
ラルフが今、本能と戦っているんだと鈍いオレにも分かった。
「僕はビスチェ以外と番う気持ちなど毛頭ない! 妻がいる男のもとに押しかけてくるような輩と面会する気もない。一刻も早く邸から追い出してくれ……!」
「かしこまりました」
執事のローグが納得したような声で言って、扉の前の気配が消える。ラルフはホッとしたようにオレの胸に顔を埋めた。
「ビスチェ……君の香りで僕を満たしてくれ」
「ラルフ、嬉しい……」
「ああ、ビスチェの香りだ。爽やかで甘やかな……華やかなのに僕を落ち着かせてくれる。ビスチェの香りをこうして感じていると、いつも不思議と元気が出るんだ。君の香りに勝るものなど何もない」
そういえば、オレンジとシトラスが混ざったみたいな香り、ってラルフはいつも褒めてくれるっけ。
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