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第30話 やっと二人きりになれた
それでも肩を抱き寄せられれば嬉しくて、安心してしまうんだからオレも大概だ。
その場を去ろうとするオレ達に、後ろから二人が何度も何度もお礼を言ってくれる。
二人が幸せになってくれればいいな、と心からそう思った。
***
ダニエル邸を出発した馬車はラルフの命により、全速力でオレ達の邸へと駆け戻っていく。
あまりのスピードにともすれば身体が浮いたり跳ねたりしそうで怯えるオレをしっかりと抱きしめて、ラルフはご満悦の様子だ。絶対にわざとだろう。
邸に到着した途端、ラルフは執事のローグに幾つかささっと指示を出し、外套を脱いでアリッサちゃんに渡したオレを姫抱きにして、二階への階段を駆け上がった。
こうなったラルフは待ってと言っても絶対に待たない。
それを知っているオレは諦めの境地で、せめて重くないようにと自身に軽量化の魔法をかけるのみだ。
案の定オレ達の寝室に辿り着くと、部屋の外で控えていた侍従が扉を開け、オレ達が部屋に入ると音もなく閉められた。あの扉が次に開くのは、多分オレが立てなくなって、もしかしたら声すら満足に出なくなった時だろう。そう容易に想像できてしまう。
部屋の中に入ったら、さっきまでの勢いが嘘みたいに優しくベッドに降ろされて、ようやくラルフの顔をゆっくり見る事ができた。
「ああ……やっと二人きりになれた」
心底幸せそうに微笑まれて、なんだか何も言えなくなってしまう。
「これでもうビスチェも、僕が『運命の番』に惑わされることは永遠にないと分かってくれたよね?」
「うん……今まで、信じられなくてごめん」
オレはラルフをまっすぐに見上げて頷いた。
ラルフはこれでもかという位、しっかりと証明してくれたと思う。『運命の番』が本当に目の前に現れても、ラルフはオレを選んでくれた。もうラルフの『運命の番』を闇雲に恐れる必要はない。
身体の隅々にまで行き渡るくらいに身に染みついていたオレの不安を払拭してくれたのは、紛れもなくラルフの一貫した言動だった。
「分かってくれたならいいんだ」
おでこにチュ、と可愛らしいキスをして、ラルフがオレの首筋に指を這わせる。
「さぁ、そのチョーカーを外して。僕にうなじを噛ませてくれるね?」
「それはいいけど……でも、オレまだ発情の周期じゃなくて」
「周期はもちろん知っている。でも、発情させる自信があるから大丈夫。今日間違いなく番えるよ」
「え、まさか薬?」
「僕がビスチェにそんな薬使う訳がないだろう。実力でいける。もう必要ないから結界を解いてくれないか?」
実力って、つまり。
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