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第31話 結界を解いて
「だってあの騒動の直前、僕達はあんなに高まっていたじゃないか。互いの愛を確信できた今、愛し合ってヒートにならない訳がないからね」
なんなんだ、その自信……!
かあっと頬に熱が集まるのを自覚して目を逸らそうとしたけれど、それはすぐに阻止されてしまった。
「目を逸らさないで、ビスチェ。あの娘を助けたら、僕に褒美をくれると約束したじゃないか」
「や、約束したけど」
「僕が望むものなんていつだってひとつしかないんだ。分かっているだろう? ビスチェ」
ラルフの指が、オレの首を守ってきたチョーカーを撫でる。
「このチョーカーを外してくれ。そして、一生僕のものになると誓って欲しい」
「ラルフ」
もうこのチョーカーを外すことに躊躇なんて無いはずなのに、なぜか小刻みに指が震える。
さっき、身体を交えながら懇願されてこのチョーカーを外そうとしたときは、熱に浮かされていたから夢中だったけど、まだしっかりと頭が働いてる状態で外すのって、こんなにも緊張するんだって思い知った。
早鐘のように打ち始めた心臓を押さえながら深呼吸して、オレはチョーカーに手をかける。
ラルフを見上げると、怖いくらいに真剣な表情のラルフと目が合った。
「ビスチェ、震えてる」
オレはちょっとだけ微笑んだ。
「なんか、お前のものになるんだなって思うと……結婚式の誓いの言葉より緊張する」
「ビスチェ……! 絶対に一生、大切にする……!」
「うん。オレもラルフを信じる。オレを、ラルフの番に……お前の唯一にして欲しい」
「一生、ビスチェだけだ」
チョーカーに魔力を通すと、小さくパシュッと音がして封印が溶ける。跳ねて転がり落ちたチョーカーはもうどこに行ってしまったか分からない。
ラルフに唇を奪われて、誓いの口付けよりもずっと熱烈なキスを贈られたからだ。
息が上がりそうなくらいにキスをして、やっと唇が離れたかと思うと、ラルフが上気した頬のまま囁いた。
「さぁビスチェ……結界を解いて」
いつもはおだやかな海を思わせる青の瞳が、夏の日差しを浴びているみたいにギラギラと輝いている。
言われるままに結界を解くと、ブワッ!!!と一瞬でラルフの香りが充満した。
「!!!???」
甘いはずのホワイトムスクのような香りが、極限まで濃縮されて暴力的に鼻腔を支配する。クラクラするような酩酊感に、根こそぎ理性が剥ぎ取られて行くみたいだ。
涼しい顔して、こんなにもラルフが興奮してたなんて。
「ああ……ビスチェ。なんていい香りだ……」
うっとりしたように呟いて、ラルフがオレの首筋に鼻を寄せ、クンクンと匂いを嗅ぎ出した。首筋にかかる息が熱くてなまめかしくて、背中をゾクゾクとした快感が駆け抜けていく。
「匂いがどんどん濃くなっていくね……ああ、もう我慢できない」
スッと身を起こしオレに馬乗りになったラルフは、タイを乱暴に抜き取るとバッとシャツを脱ぎ捨てた。天井を背景に晒された引き締まった裸体につい熱いため息が出た。
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