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質された前科10
金原と別れて、一時間が過ぎた。
ひとまず、アカの母親を探すことにした。
金原が今色々やってるだろう。
市役所に行って。
母親の住所を調べて。
なら、俺は?
部屋で、携帯を何度も開けたり閉じたり。
それから電話帳を開く。
閉じる。
受信記録からある番号に発信しようとする。
やめる。
その繰り返し。
そろそろ前に進まなくては。
今だってアカは苦しんでいる。
助けに行かなくちゃ。
ナイフまで手にして助けようとしてくれた恩返しのためにも。
親友を救うためにも。
携帯を耳に当てる。
今は午後八時。
多分、出てくれる。
ドクドクと血が巡る。
緊張していた。
だって、三日ぶりだ。
話し方も忘れた。
ルルルル……
取るな。
取ってくれ。
相反する想い。
ガチャ。
ヒュッと息を飲む。
「なにかあった……? 瑞希」
「え……」
想像と違う。
いや、想像通りなのかもしれない。
「あんなに避けてた癖に、電話が来たらそう思うよ」
「類沢、先生」
「ナニ?」
あぁ。
本当にこの人は。
目頭が熱くなる。
変わんないな。
会った日から。
動揺も、怒りもない。
淡々と。
それが落ち着く。
どこまでも落ち着く。
「あの……アカが、攫われ、て」
口が上手く動かない。
いや、今更事実が渦のように頭を侵し始めたんだ。
「多分、父親なんです……あいつ、父親に……性的虐待受け、てて……っ、一度刺して、入院してたのに……出て来ちゃって、家に来て」
伝わってるかな。
いつの間にか涙が零れる。
攫われた。
親友が。
そんな事実がどんなに残酷か。
今更だ。
栗鷹さんの前では泣かなかったのに。
泣けなかったのに。
「瑞希、続けて」
嗚咽を堪える。
類沢の声の後ろで、エンジン音が聞こえる。
まさか、運転中だったのか。
急いで言葉を紡ぐ。
「昨日、父親が来たみたいで……っ。アパートの大家さんに確認したんで、す。うっ……で、アカが俺らに相談してきたのと同じ人っぽくて……」
「誘拐されたのは確実ってこと?」
そうだ。
「はい…」
キキッ。
ブレーキ音が両方の耳に響く。
両方の耳?
ドアの開閉が聞こえる。
「詳しく聞かせてくれる?」
玄関からノックが鳴る。
「直に」
走った。
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