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晴らされた執念09

 男は手が震えているのを感じた。  カタカタと頬に当たる指が。  初対面の男に。  何故、こうもビクつくのか。  理解が出来ない。 「……としますとですね、貴方は自分を刺した犯人を家に連れてきたということになります。失礼ですが、こう言われても仕方がありませんよ」  襟梛を一瞥する。 「息子に会わせろ、と」  沈黙が流れる。  完璧な論述だ。  否定しようがない。  感情で責めてダメだった。  なら、この展開はどう動くのか。  固唾を呑む。 「哲は……」  男が頬に爪を立てる。  ゆっくりと。  引っ掻く。 「誓ったんだ」  冷や汗が伝う。  俺はいつの間にか寒さに鳥肌が立っていた。 「二人で暮らしていくって」  男は、純粋に、笑みを浮かべた。 「哲はずっと待っていたんだよ。父親を。だから、家も用意した。何一つ不自由じゃない、家族に戻れる。過去のように」 「それは、いつの話でしょうね」  男が類沢を睨む。 「少なくとも、貴方を刺した後とは思えませんが」 「哲はここで幸せに暮らすんだ。他人は消えてくれないか」 「ひょっとして、これで済むとでも思っていらっしゃるんですか?」  声のトーンが変わった。  俺にはわかる。  豹変が。  表情は変わらない。  変わったのは、眼。  あの真っ暗な部屋で見た、狂気の眼。 「話し合いで解決しようと努めているつもりですが……そちらがそのような態度でしたら」  ガチャン。  門を開く、冷たい手。  男が後ずさる。 「不本意ながら、強硬手段に出させて貰おうかな」  ゆったりとした語尾が、相手を威圧する。  襟梛ですら青ざめていた。  入ってくるとは思わなかったんだろう。  男はわかりやすく動揺した。 「市の一般職員にそんな権利はないだろう!」 「残念ながら、あるんですよ」  敬語に戻ったものの、もう遠慮はそこにない。  俺達も続く。  家に入れば、こちらのもの。 「扉を開けてくれますよね」  鍵を手にした男に尋ねる。  類沢の目は、笑っていない。 「……好きにしろ」  男は鍵を開けた。  そして、扉を開くと、不敵に笑った。  金原とアイコンタクトする。  類沢の横をすりぬけ、家の中に飛び込んだ。 「アカ!」 「どこにいるー!」  二階に走る。

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