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どこまでも08
噂は早い。
つい今朝まで僕の裁判を口にしていた生徒が、もう雛谷のことを話している。
「あの先生だもん。絶対過失とかじゃないよ」
「ヒナヤン先生好きだったのにー」
「つか晃達が来ないとかマジ嬉しいわ。あいつら問題起こしすぎなんだよな」
類沢は椅子に座って、廊下から響く会話をぼんやり聞いていた。
ペンを置き、背にもたれる。
自分もああやって噂されたんだろうか。
くだらない。
暇なものだな、学生は。
類沢は一息吐いて、ある場所に足を運んだ。
コンコン。
「どうぞー」
開き戸から覗いた顔は、疲れ切っていた。
「まだ帰ってなかったんですかぁ」
「こっちの台詞だけど」
雛谷はカチャカチャと破片を片付けていた。
机の角には焦げ痕が残っている。
薬品臭を消すためか、窓は全て開け放たれた。
「校長から謹慎食らっちゃった……管理不届きだって」
「それで済んで良かったじゃん」
「まあねぇ」
ガラガラとゴミ箱に破片が砕ける。
変色したガラス。
雛谷はそれを見つめながら、手を下ろした。
「……アナタが帰って来たからですよ」
尋ねたいことを汲み取ったように呟く。
類沢は黙って壁に寄りかかった。
「本当はこのまま卒業させても良かったんですけど、アナタが裁判で辞めちゃえば、真相知るのは瑞希だけで、無視も出来たんです。でも」
雛谷はロッカーに道具を片付けて俯く。
「……悔しくなったんですよねぇ」
類沢は静かに髪を耳にかけた。
「あいつら、結局アナタからの瑞希への復讐しか受けてないじゃないですか。このままだとムカついて、仕方なかったんです」
沈黙が流れる。
雛谷は泣いているようにも、笑っているようにも見えた。
ポケットから持ってきたものを取り出し、声をかける。
投げられたものを両手で受け止め、雛谷は首を傾げた。
「保険」
「え?」
テープに目を落とす。
「どうしたって勝手だけど」
「じゃあ、こうします」
雛谷はビーッとテープを引き出し、グルグルにしてゴミ箱に投げた。
地に着く音が響く。
夕暮れの中。
「最良の選択だね」
「ふふ……これは瑞希の為に作った保険でしょう? いりませんよ」
無言で笑う。
「あー、スッキリしました。片付けも終わったし帰りますかね」
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