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どこまでも16
「思い出さなきゃ……」
言葉が終わる前に、唇を重ねた。
瑞希が目を見開く。
何か言いかけた口に舌を差し込み、絡ませる。
クチュリという音がやけに響く。
抵抗にベッドが軋んだ。
肩が強張る。
噛みつこうとする度、首筋をなで上げた。
声が上がりそうになるのを必死で我慢している。
奥に逃げる舌を引き出す。
羞恥で熱が上がった。
胸元をドンドンたたかれる。
その内、力無く縋るように、震える指で肩を掴んだ。
口の端から唾液が伝い、鎖骨に滴った。
離れた時、瑞希は息が切れていた。
信じられないように濡れた唇に触れる。
「あ……」
揺れる視線が目の前の男を捕らえた。
「僕は類沢雅だ」
「な……ん」
下唇を噛み締めて、思い切り右手を振りかぶる。
「記憶が無くなっても構わない」
手が空中で止まる。
目は見張ったまま。
瑞希が首を傾けながら、僕を観察する。
手を掴み、ゆっくりと下ろさせた。
「お前の教師だった僕を忘れていても構わない。一つ先に謝らせて欲しい。僕のせいで辛い目に遭わせてしまった……ごめんね、瑞希」
困ったように見上げてくる。
「それからね」
額がくっつきそうなほど、顔を近づける。
逸らそうとした頬に手を添え、無理やりこちらを向かせた。
「お前が何回忘れたって、落としてあげる。その自信があるんだ」
太陽が雲に隠れ、瑞希は影に包まれた。
射竦められたように、僕を見つめて。
「だって」
笑い出したくなる。
その衝動をとどめて、口を開いた。
「お前は、どこまでも僕のものなんだから」
太陽が姿を現して、部屋が光に満ちた。
瑞希は生唾を飲み、深い呼吸を繰り返す。
ずっと握っていた、左手に触れて。
僕は身を起こして、カーテンを開放した。
「とりあえず、医者に知らせなくちゃね。瑞希が起きるのを待っていた人は沢山いるんだ」
類沢は出口に向かった。
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