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顔を見た瞬間からの嫌な予感08

 緑の固形餌を籠に大量に入れる。  それを抱えてやわらかい土の上に置くと、すぐに足の踏み場もないほど囲まれる。  白い兎。  黒い兎。   ぶち模様の兎。  小さい鼻をスンスンさせながら。 「忍ー。水持ってきた」  飼育小屋はトタン張りで、扉は二重構造になっている。  カギの壊れた南京錠で申し訳程度に閉められているが、大きな水箱を抱えていては扉を開けない。  なんとか兎を足で退けながら拓の元に行く。 「増えてね?」 「今年ベビーブームだったよな」  チャプンという音を聞き取った何匹かが駆け寄ってくる。  その勢いったらない。  拓がよろけたので急いで手を貸す。  こぼしたらまた校舎までの三百メートルの往復だ。  面倒臭すぎる。 「あっぶね」 「早く置けよ」 「わかってるけど、ジャシファーがどかねえんだもん」 「どいつ?」 「それ」  黒の縞模様の兎を抱き寄せて横によける。 「そいつじゃない。そっち」 「知るか。早くしろよ」  金網の向こうから見える校舎の時計を確認する。  前髪を掻きわけて、目を細めて。 「何時ー?」 「三時四十五分。今日かかりすぎだろ」 「だってジャシファーが……」  ぶつぶつ言う拓の後ろを通り過ぎ、小屋から出て南京錠を閉める、  カシャン。  妙に音が響いた。 「ああっ! おい!」  すぐに気付いた拓が網にしがみつく。  錠といっても壊れてる。  すぐに開く。  はずだった。  いつもなら。  指に違和感が走る。  おかしい。  開かない。 「忍。まさか開かないとか言わない?」 「開かない」 「ふざけんなよぉおおおお」  日が傾いてきた夕方。  飼育小屋に閉じ込められるなんて夢にも思わないだろうな。  チャリ。  錠が揺れる。 「拓」 「なにっ?」 「網の隙間からコレ触れる?」  一瞬きょとんとしたが、すぐに中指と人差し指で南京錠を摘む。 「……新しくなってる?」 「泥で汚れてるけど、そうだよな?」 「忍は冷静だな」 「俺、外にいるし」 「見捨てんなよっ」 「わかってるって」  小屋の傍の棚を探る。  餌やスコップなどが煩雑に並んでいる。  カギらしいものは見当たらない。  どこだ。

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