20 / 115

顔を見た瞬間からの嫌な予感10

「やばいっ!」  言った時にはもう遅い。  黒猫みたいにしなやかな動作で地上に降り立ち、駆け出す。  俺は急いで金網を持ち上げ、第二陣の兎たちを食い止めた。  拓は持ち前の脚力でジャシファーを追いかける。  だが、全然追いつかない。  鬼ごっこのプロじゃねえのってくらいにフェイントがうまい。  無理やり網を柱にくくりつけ、切れた場所は適当に捩じって合わせる。  これで小屋は大丈夫だろう。 「忍! 挟み撃ちにしよう」 「ああ」  とはいっても校庭だ。  障害物のないフィールドで兎に敵うわけがない。  五分も経たないうちに、努力も空しく山に消える影。  息切れをしながら拓と視線を交わす。  躊躇せずに木々の中に突っ込んだ。 「上に追い込めば捕まえられるよなっ」 「……たぶん」  ガサガサガサ。  前の木の葉が揺れる。  足跡が刻まれてる。  この山は広い。  一回見失ったら望みはないかも。  焦りが出る。  足が痛い。  疲れた。  くっそ。 「忍! 目の前!」  声に反応して顔を上げると、丸太の段差でジャンプを失敗したジャシファーが立ち止っていた。  最高のチャンス。  拓も走ってきてる。  手を伸ばす。  地面に倒れる瞬間に手の中に捕えた。  やった。  捕まえた。  その一秒後、拓が倒れこむ。  手を伸ばして。  ほぼ同時に飛んだみたいだ。  派手にぶつかり、絡まって、二人と一匹はゴロゴロと斜面を転がった。  少し傾斜がなだらかなところでうつ伏せになる。  腕はジャシファーを抱えたまま。 「……はあっ、あっ、はあっ」  心臓が止まるかと思った。  服は泥まみれで、髪はぐしゃぐしゃ。  葉っぱも無数に付いている。  横で拓が四つん這いになって息を整えている。 「がっ、はあ……はあ。ジャ、ジャシファ……は?」 「いる……ちゃんと」  バババッと足をばたつかせて。  逃げようと。  なんとか足を抱え、上体を包むように支える。  先生に教わった抱き方だ。  すぐに大人しくなった。  フンフン。  こいつも息が切れている。  そりゃそうか。  拓が四つん這いのまま近寄る。 「お前も馬鹿だなー」  わしわしと撫でて。  幸せそうに。  なぜかそれが無性に苛立った。  ジャシファーを押しつけて立ち上がる。

ともだちにシェアしよう!