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顔を見た瞬間からの嫌な予感12
カン。
靴底がジムの鉄棒に跳ねる。
オレンジ色に染められた校庭と、ピンク色の西空。
「実はオレ、都立中に受験することになった」
風が止まった。
体重を支える腕が震えた。
通称都立中。
地元で治安最悪の中学。
「嘘、だろ」
拓の瞳が下がっていく。
伸びた二人の影を見下ろして。
「早く教えようと思ってたんだけどさ。先生には言ってある」
「だって普通に第一中行けば……」
「母さんがね」
遮る強い声。
拓自身ハッとして表情をやわらげた。
「母さんが、病気になっちゃって。都内の中央病院に入院してんの。よくわかんねーけど大変らしくて、仕事も辞めてさ。父さんは単身赴任だから帰ってこれないし。で、その近くに引っ越すことになってさ。そこから通えんのが都立中だけで」
「引っ越す?」
その四文字だけが響いた。
「そう。卒業したらすぐ……だから、忍と離ればなれになっちゃうな」
泣き笑いして。
一気に色々言いやがって。
わかってんのか。
今月末修学旅行だぞ。
みんなその話題しか頭にないんだ。
どうせ卒業しても全員が同じ中学に行く。
そう思ってるから、入学するまでてめぇがいなくなったのわかんねーんだぞ。
「忍」
「……ふざけんなよ」
不意に洩れた言葉。
拓が強張る。
「だから嫌だったんだよ……てめぇみたいな自己中と仲良くなんのなんか大嫌いなんだよ……結局あのババアと同じか。自分の都合で行くんだろ。散々……くそ」
「……」
違う。
こんなこと言ってる場合じゃない。
拓が見れない。
何も着てない上半身が急速に冷えていく。
頭も一緒に。
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